【現パロ】お弁当
チカちゃんは自席で相変わらずパソコンとにらめっこしていた。
「チカちゃん」
「お、今日は中か?」
パソコンから顔を上げて、チカちゃんは俺の顔を見て笑った。
「飯、どうする?」
「悪ぃ、食ってるヒマねぇ」
予想通りの答えだった。チカちゃんはこのところ残業続きで、帰ってくるのも日が変わるか変わらないかの頃だし、朝も早く出勤しているらしい。顔を合わせたのも久しぶりだ。
だから昼飯ぐらいは一緒にと思ったが、仕方ない。
ただ、残念ながらも今回ばかりは都合が良かったりする。
「そう言うと思った」
俺はチカちゃんのサイドデスクに紙袋を一つ置いた。
「何?」
「これだったら片手で食えるだろ?」
チカちゃんは首をかしげながら、紙袋の中を覗いた。
「サンドイッチか! 伊達の手作り?」
「まあな。てめぇ、ほっといたら、昼飯食わねぇだろ。どうせ朝もろくに食ってないだろうと思ってな」
「ホント、伊達って、優しすぎ」
そう言いながら嬉しそうに笑うチカちゃんを見てると、こちらは悪い気はしない。
「今度、飲み代、奢れよ?」
「仰せのままに」
チカちゃんは急に立ち上がると俺の手を掴んで来た。
「どうした?」
「悪ぃな、いつも、気ぃ遣わせて」
「おっ、珍しくしおらしいじゃねぇか。残業続きでへたってんのか?」
「…まぁ、そんなとこ」
俺はそっとチカちゃんの頬に触れた。よく考えたら、チカちゃんに触るなんて何日ぶりだ?
「…あんまり顔色、良くねぇぞ。たまには早く帰った方がいいんじゃねぇか?」
「頑張ってみる…。でないと…」
チカちゃんは俺を抱き寄せたかと思うと、軽くキスしてきた。
……会社だっつうの、全く!
「こんなに伊達に触ってない日が続くと、おかしくなりそうだしよ」
「……勝手に言ってろ」
「連れねぇなあ」
チカちゃんは、紙袋からサンドイッチを出すと、いっただきま~す、と嬉しそうな声を出している。
「チカ…」
「ん?」
「実は俺もどうにかなっちまいそうだ」
チカちゃんは、一瞬、目を丸くしたが、すぐに目を細めて、口元だけで笑った。
「上等。定時で帰る」
「了解した。また帰りに寄る」
パソコンに向かったチカちゃんは片手をひらひらさせて、返事をした。
さて、と。
俺は大きく体を伸ばした。
定時で俺が帰るためには、と自分の残作業を脳内にロードした。
……小十郎に手伝って貰うかな。
定時が待ち遠しくて、何となくドキドキし始めた自分の気持ちに、苦笑しながら、晩飯の献立を考えた。
<終>