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さいとうはな
さいとうはな
novelistID. 1225
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無題

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「では我輩はこれで失礼するよ、政宗君。ありがとう、とても楽しかった」
 気障ったらしくご自慢のひげを捻り、羽州探題はゆうゆうと広間を出て行く。
 招かれざる客の後ろ姿を見送って、政宗はやっと肩の力を抜き、ずるずると肘置きにもたれかかった。
「政宗様」
 いさめる声になんだよと返す声が疲れている。
「お疲れなのは分かりますが、」
「Ah、分かってる。今は小言は聞きたくねえ……」
 血の繋がった叔父であるとはいえ、最上義光は正直苦手な部類の人間だ。なまじっか血の繋がりさえなければ、斬れるものをと思う。もっとも、そう思っているのは向こうも同じかもしれない。何にせよ、疲れる相手なのは間違いようもない。
「今日はここまでだ……俺は休むぞ」
「はっ。夕餉は如何いたしましょうか」
「酒があれば充分だ。とにかく疲れた」
 承知致しました、と小十郎が頭を下げるのを横目に、政宗は深く深くため息をついた。苦手な人間の相手をまるまる二日もしたのだ。肉体的にはともかく、精神的な疲労が濃い。癒しが欲しいもんだと考え、脳裏によぎった大柄な影を振り切るように首を振る。
 もう、半年近くになるだろうか。やっとの事で手にいれた風のようなあの男を、もうそれだけ長い間、この手に抱いていない。
 想えば苦しくなるだけと思っているが、次に会えたら存分になじってやろうと心に決める。なじって、泣かせて、当分は離してやるものか。


 湯につかって身体を解し、夕餉までの暇つぶしついで、政宗は自室で溜まった書に目を通していた。殆どが政宗宛の私信で、急を要するものはなさそうだ。その事に安堵する。
 何通か目を通し終わって、肩を回していると、するりと障子が開かれた。
 失礼します、とかけられた声は小十郎のものではなく、側小姓のものでもない。新入りがいるなんて聞いてないがと顔をあげ、政宗は一瞬固まった。
「……!?」
「政宗様、夕餉をお持ちしました。……なーんちゃって」
 銚子と盃の載った膳を脇に、開いた障子の向こうで笑っているのは、間違いなく、長いこと顔を見せていなかった情人だ。
「はは、驚いてる驚いてる! やったね、その顔が見れただけで待った甲斐があるってもんだ」
「慶次お前、いつ……」
「昨日だよ。結構早い時間に着いてたんだけどね、苦手なお客さんだったんだって?」
 にこにこと笑いながら膳を手に入ってくる慶次に、政宗は俯いて唸った。
「shit! とんだsurpriseだぜ……」
「あ。……もしかして、怒ってる?」
 心配そうに声がひそめられた。すぐ隣に、恋しい風の気配。ごめんね、と大きな手が伸びてそっと髪を撫でられた。
「隠れてるつもりじゃなかったんだけどさ、俺だって一日待ちぼうけくらったんだ、そんなに怒らないでくれよ。久しぶりなんだから」
 久しぶり、という自覚はあるわけだ。政宗は些か不機嫌に眉を寄せて、触れてくる手を引いた。
「怒っちゃいねえ、驚いただけだ」
 体勢を崩し、腕の中に落ちてくる身体を抱き寄せる。ちゅ、と額に唇を落としざま、そう告げれば、強張った慶次の肩があからさまに安堵した。
「だがな」
「ん?」
「たったの一日で『待ちぼうけ』たあ、どういう了見だ」
 低く耳元に囁いて、ついでに耳朶に歯を立てる。びくりと慶次の身体が跳ねた。
「久しぶりだって言ったが、それは誰のせいだ? こっちは一日どころじゃねえお預けくらってんだぜ」
「それは……その、ごめん」
 しっかりと抱きしめているせいで見えないが、どうせ眉の下がった情けない顔をしているんだろう。しょぼくれた声音からも本当に申し訳ないと思っているのが伝わってくる。
「でもさ、言い訳するみたいだけど、別に忘れてたとか避けてたってわけじゃないんだぜ。俺だって、その、会いたいとは思っていたさ、でもさ、でも」
「okey、そろそろ黙っときな」
 本当は政宗だって分かってはいるのだ。ただ、二人が会えるのは慶次が訪ねてきたその時だけだ。待ち続ける側の恨みつらみを、零したくなるときだってある。
 女々しいな、とこっそりと政宗は嘆息した。待つのも、間が乱されるのも好きではない。好きではないが、許そうとは思っているのだ。少々なじったところで、このひとつところにいられない風来坊の性質が治らないことだって理解はしている。
「政宗……」
「覚悟しろよ、慶次」
 頬に手の甲を沿わせ、そっとこちらを向かせた。女にだってこんなに優しく触れた事がないと言ったら、どんな顔をするだろう。
「暫く離してやれねえぜ。俺を飢えさせた罰だ」
「……飢えてたのかい?」
「ああ」
 柔く触れ合わせた唇をひと舐めして、しっかりと目を合わせる。いたたまれなさそうに睫を伏せる慶次の瞼に、鼻先に、幾度も唇を落とす。
「お前だって俺が足りないだろう? なあ」
 欲しいと言え、と喉まで出かかった言葉をどうにか飲み込んだ。背中にそっと回された手が全てを語っている。
 随分とcuteな愛情表現だ。
 声に出さず笑った政宗は、それだけで何か満たされたような気持ちになって差し出された唇に食らいついた。
作品名:無題 作家名:さいとうはな