夏の風
誰かが噂しているのだろうか?
船上の片付けをしている。
いつも通りにタカシが床にブラシをかけて、
私がテーブルの上の食器を片付ける。
「シモーヌ風邪かい?」
夏が近いとはいえ海へ浮かぶサンダーガール号の
船上は夜になると少し風も冷たくなる。
一枚上に着てくるべきだったかしら。
大丈夫の言葉が出る前にふわりと背中からタカシの温もりが伝わってくる。
「大丈夫よ。タカシ。」
前に向き直って顔を覗き込む。
あまり表情を変えないタカシはいつも何を考えてるのかわからない。
「あとは僕がやっておくから、
シモーヌは先に休むといい。」
「でも。」
床もテーブルの上もまだまだ片付けは残っていた。
「いいから。」
背中を押されて船内へと足を進める。
ばたんと閉められた扉の小さな窓からはタカシの後ろ姿が見えるだけ。
そんなに心配してくれなくてもいいのに。
あとで暖かいハーブティーでも入れてあげようかしら。
背中はまだ暖かい温もりに包まれている気がする。