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question(米×英)

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「また・・・・か」


 異臭を放つ石炭の様に真っ黒な物体を、
 アーサーは恨めしそうに見つめた。


 机上のレシピ本は、何度も読み返されたのか
 随分草臥れている。

 開かれたページには、自国の料理である
 スコーンの作り方が掲載されていた。


「元気だして、アーサー」


 みかねた妖精が頭上をくるりと一周する。
 
 それを引き金に、ユニコーンや小人も
 心配そうな顔つきでアーサーを取り囲んだ。

「次はきっと、成功するわよ」

 皆口々に励ましの声をかける。


 しかしアーサーにとっては、ただの気休めにしかならない。

「・・・・・そうだな」

 拳を握り締め、苦笑して返事をする。



 
 本当は分かっているのだ。

 美味くつくれる訳がないことぐらい。

 何百年もずっと、レシピを暗記して挑戦しても、

 1回も理想どおりに出来た事はない。

 こんなに苦労してるのに、なんで

 俺は、誰かに「美味しい」って言って欲しい

 だけなのに。




 <<ピリリリリリリ>>


 突然鳴り出した、耳を貫く電子音。

 妖精達は驚いたのか、一瞬でどこかに行ってしまった。


 アーサーはポケットから急いで携帯を取り出した。

「・・・はい」

「あ、もしもし、アーサーかい?」


 ------この声は・・・・・。

「今、君ん家の玄関にいるんだけど、入っていいかな」


 思わず窓から外を見ると、

 アルが携帯を片手に立っていた。
 仕事の帰りだろうか、きっちりとスーツに身を包んでいる。

 アーサーが携帯を切ると、「あれ?」
 と言って、自分の携帯とにらめっこを始めた。


「ったく、来るんだったら連絡しろよ」


 アーサーは窓を開けて叫ぶ。

「アーサー!!だから今、連絡したじゃないか」

 アルは携帯を仕舞いながら、ムッとした表情で返事をした。

 
 独立したとはいえ、こんなところはまだまだ
 子供っぽい。

「事前に言えってことだ馬鹿。紅茶くらいだしてやるから、さっさと入れ」

「また鍵、開けてたのかい?無用心だなぁ」


 アルは微笑してドアに手をかけた。


 それを見た後、アーサーは、何かに気付いたように慌ててゴミ箱を用意した。


 せっかく作ったスコーンは、隠されるかの如く
 荒々しく捨てられた。


 そして、戸棚から茶葉を取り出す。


 これ(紅茶)だけは失敗しないのが、
 せめてもの救いだった。

 まぁ、アルはいつもコーヒーのが良いだの
 駄々を捏ねるが。

 やっぱり、そんなことを言われたら
 喧嘩になるのは目に見えるから、やっぱりコーヒー作っとくか?

 でも、もう茶葉出したしな・・・。

 別に、アルの好みにあわせる必要ねえよな。
 大体アイツは口ばっかりでなにもしないんだ。


 なんか、腹立ってきた。



「アーサー、ちょっといいかい?」

 後ろから声が降りかかる。

「なんだよ。子供はテレビでも見て大人しくしてろ」

 振り返りもせず、乱暴に答えた。
 

 そういえば、アルが自分からキッチンに顔を出したのは
 初めてだった気がする。

「っ、もう子供じゃないよ!それよりアーサー、君、
 こんな本はちゃんと見えないところに置いてくれないかな」

 ため息をついて、アルが一冊の本を突き出した。

 作業を止めて目を凝らすと、それは
 昨日買ったばかりのエロ雑誌だった。


「あー、これ結構良かったぜ。なんだアル、反応しちまったか?」

 嘲笑してその雑誌を取り上げた。


 ------玄関に置いたままにしていたのをきっと見つけたんだな。

 
 表情を一瞥すると、予想通り真っ赤になっている様子はなく、
 少し悲しげだった。


 
 
 
 この顔は、あの時と同じ、だ。



 
「アル・・・・?」


「悪いけど、今日は帰る」


 アルはクルリと背を向けた。


「ま、待てよ!」

 とっさに腕を掴む。
 

 何故か、ここで引き止めないと何かが終わる気がした。


「急にどうしたんだ。俺が悪かったなら謝るから、訳を話せ」

 ジッとアルを見据える。


 -----頼むから、何でも良いから、言ってくれよ。
 



  もう、そんな顔見たくないんだ。



 アルはアーサーを呆れたように見つめ返し、ため息をついた。

 
「自分で分からないなら、もういいよ。
  俺が何で、怒ってるか理解出来たら、またここに来るよ」


 そう言い放ち、アーサーの腕を振りほどいて

 アルは玄関に向かう。




 







「・・・・・意味わかんねえよ」


 アーサーは1人立ち尽くしたまま、
 そう、呟くことしかできなかった。




 


 to be continued