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こがれて、こがれる

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 分かる、分からない。感じる、感じない。
 そこには確かに『境目』というものが存在する。
 中心から離れるにつれて分かりづらくなっていく自分の気持ちに向き合おうと思ったキッカケは、何でもない、ささやかな日常の中にあった。

 授業が終わって、部活(と言っても室内トレーニングしかしていないが)も終えた帰り道。
 息が白い、と。ただそれだけのことに、円堂ははしゃいでいた。
「やっぱりまだ寒いんだな〜」
「まだ2月だからな」
 鬼道の答えに、そっか、と笑って。
 そんな2人の2歩後ろを俺と豪炎寺が歩いていく、いつも通りの帰り道。
 腹が減ったとか、雷雷軒に寄って行くか、とか。
 そんな話をしている最中に、突然円堂が隣に居る鬼道の手を掴んだ。鬼道が息をのむ音が、耳に届く。
「っ円、」
「っ冷てぇ!」
「……はぁ?」
「鬼道の手、すっごく冷てぇ!辛くないのか?」
「いや、というか――――」
 一瞬面食らっていた鬼道だけど、流石に1年近く円堂と付き合ってきたからか。脈絡の無い唐突さに免疫がついたようだ。
 いちいち向こうの台詞に対して律儀な対応をとることを諦めているようで、「取り敢えず手を離せ」という冷静な言葉が聞こえる。
 でも、円堂は手を離さない。
 むしろしっかりと手を掴んだまま、自分の手ごと自分の上着のポケットに突っ込んだ。
「……おい」
「あったかいだろ?」
「そうじゃなくてだな……」
「俺、よく体温高いって言われるんだ。だから、鬼道の手をあっためてやれる!」
「……」
 円堂はいつも通り笑っている。
 こいつは昔から、自分がやろうと思ったことをやり遂げる実行力だけはあるんだ。で、その時に周りが自分をどう見ているかを冷静に確認する能力が備わっていない。
 鬼道の場合はかなり周りの目を気にするから、中学生で男同士が帰り道に手を繋いでいる今の状況は内心複雑なんだろうけど……。
 ――――結局、鬼道が折れた。
「……もう、好きにしてくれ……」
「?おう、任せとけ!」
(……うわー、噛み合ってない)
 そんなやり取りを後ろから傍観していたら、ふっ、と。隣の雰囲気が和らいだような気がした。
 視線をそっちに向けると、案の定、豪炎寺の口元が緩やかな弧を描いている。
 一拍置いて、向こうもこっちに目を向けた。お互いの視線が噛み合った所で、どちらからとも無く苦笑する。
 先に口を開いたのは、豪炎寺だ。
「――――仲がいいな」
「そうだな」
 仲がいい。喜ばしいことじゃないか。
 仲が悪くて困ることはそうそう無い。
 本当に、そう思った。
「なあ、2人も雷雷軒行くだろ?」
 俺腹減っちゃってさ〜、とジェスチャー付きで現状を説明する円堂の提案に自分は頷いて、豪炎寺は妹と約束があるからそのまま帰宅すると答える。流石の円堂もそこで無理に引き止めたりはしない。
「んじゃ、行こうぜ!ラーメン、ラーメン♪」
「っおい、急に走るな!」
 がくんっ、と一度バランスを崩しながらもすぐに体勢を整えて走り出せる辺りは、流石だ。
 手をポケットの中で繋いだままの2人を追い駆けて、自分も走る。
(――――ん?)
「っ風丸ー?何してんだよー、はーやーくー!」
「っああ、分かってる」
 頷いて、また走り出す。
 手袋の中の手が疼いたことに、気付かなかった振りをして――――。
 
 しっかりとした名前は無かった。
 ただ、自分の体は思っていた以上に自分の心をよく知っていたということなんだろう。
 ――――あれから2年が経って。
 変わったものがある。変わらないものも、ある。
 知らず知らずの内に温めていたらしい自分の気持ちは、今はまだ、自分の中で目を閉じて……。
 
 春を、待っている。
 
 《終わり》
今はまだ、名前を言えない
作品名:こがれて、こがれる 作家名:川谷圭