涙と傷と 。
「――――政宗様」
自分を呼ぶ声がして俺はゆっくりと目を覚ます。
今日は夢見がよくなかった。
どんな夢を見ていたのか、と問われればそれはあまりにも曖昧でとても言葉に表せるものではないのだが
なぜだかとても
嫌な夢だったような気がしてならない。
「ん…、小十郎?」
声の主を足らずな意識で探せば俺の右目
―――――片倉小十郎がすぐそばにいた。
「申し訳ありません政宗様。うなされているようでしたので勝手な判断ながら部屋に上がらせていただきました。」
そういって頭を下げる小十郎にいい、と言って重い体を起こす。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、Noproblem」
そういえば怪訝そうに納得いかない、と言いたげな顔をする小十郎を無視する。
「どのくらい寝ていた。」
「丸一日程…」
「一日!?」
驚いて聞き返せば静かに頷き返されて頭を抱える。
一日寝ていたなんて信じられない。
「先日の戦でお疲れになられたのでしょう。仕方がありません。」
「……はぁ」
苛立ちを抑えられずため息をはく。
頭がガンガンとして呻けば小十郎が水を差し出したので一気に飲み干した。
そうすれば少し感覚が戻って来る。
「政宗様。」
「…っ」
小十郎に名前を呼ばれてギクリとする。
いつもこうだ。
戦の後は夢見がよくない。
その理由はわかっている。
わかっているからこそ
「今回の戦、多くの兵を失いました。」
「!……Isee。」
「…貴方様のせいではありませんよ、政宗様」
「…あぁ、それがどうした」
「政宗様。」
「…〜〜〜っ」
乗り越えなければならない。
乗り越えた“ふり”をしなければならない。
なのに小十郎はいとも簡単に見破ってしまう。
俺の弱い心の中に流れる水の様に優しく侵入してくる。
俺は奥州の独眼竜だ。
いちいち兵の死を気にしている様では全国統一など
国を手に入れることなどできないのに。
わかっているけれど
どうしても乗り越えられない。
傷は心の中で大きくなっていつしか俺の重荷になっていく。
「失礼します」
「何、……っ!!」
小十郎が一言謝ってから俺を腕の中に閉じ込めた。
急なことに驚いているときつく抱きしめられる。
「私は貴方様の右目です」
「!」
「どうか一人で抱え込まないで、貴方様の背中は私がお守りします。貴方様の不安も傷も一緒に負っていく覚悟でございます。」
「こ…じゅう、ろう」
小十郎の心臓の音が聞こえる。
小十郎は今ここで俺の目の前にいて触れられて…生きている。
生きている。
「小十郎…」
「はい」
「小十郎」
「…はい」
「………………誰にも言うんじゃねぇぞ」
「……?…………っ」
小十郎が生きていることに安心した。
小十郎が抱きしめてくれることに安心した。
小十郎の優しい言葉に安心した。
何故か俺は無性に泣きたくなった。
「綺麗な…涙ですね」
「…………小十郎」
「はい、政宗様」
回された腕に応えて。
fin...