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未来人がDホイールと合体する理由を本気出して考えてみた。

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未来人がDホイールと合体する理由を本気出して考えてみた。



「ゾーン、ゾーン、助けてくれないか」
アンチノミーがゾーンをうるさく呼んだ。ゾーン。ゾーン。きてくれ早く。非常にまずいんだ。ゾーンは重たい体を動かして遠隔映像通信機器を作動させる。映像は映らない。電波がわるいということはない。ということは、アンチノミーに搭載されている網膜認証部分が故障しているのか、とゾーンは推測する。アンチノミーの、いつもよりノイズが混じった声はゾーンの耳朶に取り付けた音声受信装置から変換ソフトを使われ0と1で構成されるデータとなり、サイボーグ化した脳に届けられる。
「またですか」
「あぁ、すまない。そうなんだ。少しバランスを崩してしまって……」
先日、生前彼が愛用していたデルタイーグルを真似てそっくりそのままの愛機をつくってやった。「ありがとう、ゾーン!」彼は笑顔でそういった。喜んでいることが手に取るように伝わりゾーンは少しだけ満足していた。生前のアンチノミーは喜怒哀楽をはっきりと表す非常に気持ちのよい男だった。その部分は人間の頃と共通している。
「どこへいくのだ、ゾーン」
パラドックスがゆるく目を開いてこちらを見ていた。じっさい彼の体はまだ製造できていなかったから、彼はホログラムとしてゾーンの目に視認されている。「貴方は気にすることはありません」ゾーンはそういって場所を離れた。パラドックスはゾーンを見送った後また手元のカルテに目を戻す。

「あ、ゾーン」
アンチノミーはゾーンの姿を認めるとうれしそうな声をかけた。ゾーンはアンチノミーの姿を見るだけでため息をつきそうになった。アンチノミーは頭だけまわしてゾーンに話しかける。
「これをどけてくれ」
アンチノミーはただひとつ残っている右手をぶらぶらと回した。ゾーンは足下に転がっている右足を拾った。そして放り投げた。修理できそうな重要な部品は拾い上げ残りは放置した。そうなると、アンチノミーの体の半分はおいてけぼりになってしまった。Dホイールが左半身をすべて押しつぶしていた。
「私一人では無理です。アポリアも呼んできましょう」
情報端末を使ってアポリアを呼び出す。アポリアがくる間、アンチノミーは自分の失態と大切な体を使いものにならなくしたことをわびた。
「それで考えたわけだが、いっそDホイールと合体できるようにすれば事故を起こさずにすむと思う。いったん下半身との連結を切ってその後車体のアクセルブレーキに切り替えるんだ。自立歩行と同じプログラムで姿勢制御はできる。むしろ自分とDホイール、二つ分の姿勢制御を考えずに直結させるとずっとスムーズになるのだが、あぁ、アポリアちょうどいいところに来た」
アポリアは地面に転がったアンチノミーを認めると「ひっ」と息をのんだ。「あ、アンチノミー!」アポリアは自分の髪をかきむしった。「ひっ、あ、ああ…ッ!」そのままよろよろとゾーンにもたれ掛かるように崩れ落ちた。
「アポリア?」
「ああっ……ゾーン…!誰があんなことを……!もうたくさんだ、もう、大切な仲間が死ぬのは、ああぁ、アンチノミー、アンチノミー…!ああぁぁああぁあああ」アポリアはうずくまると壊れた機械のように叫びだした。人間で言えばそれは完全に狂っていた。「バグか?」アンチノミーはまだ空を向いたまま一つの原因を言った。ゾーンはわめき続けるアポリアの背中に取り付けてある緊急停止システムのボタンを押した。アポリアは動かなくなった。ゾーンは静かに理由を説明した。
「彼は両親と恋人を目の前でバラバラにされたのです」
「なるほど、そうか……。しかし、アポリアが動けなくなったら、いったい誰がボクとアポリアを運ぶんだ」
パラドックスは動けないんだろう。アンチノミーはそろそろこの代わり映えしない空に退屈してきていた。ゾーンはアポリアの頭を開くと脳の部分からチップを一つ取り出す。再起動のスイッチを押した。アポリアは立ち上がりアンチノミーをみたがもうなにも叫ばなかった。「またお前は……」能面のような無表情さでアポリアはアンチノミーのDホイールを時間をかけてやっと退かした。
「そのままアンチノミーを運んでください」アポリアは右肩にアンチノミーを担ぎ、一緒にDホイールを運ぼうとした。腕が一本みしりといやな音を立てた。「あぁ、それはいいです」

「ゾーン、ひとつ聞いてもいいか」アンチノミーが担がれながら前を歩くゾーンに聞く。
「どうぞ」
「なぜキミはそうも感情にこだわりたがるんだ」
感情があるから壊れたんだろう。アポリアは。そうやって感情は預かってあげればいいんだ。ボクだって、自分の体がバラバラになってなにも感じないわけがないだろう。
ゾーンは振り向かない。
「貴方のそれは、慣れですよ」
「慣れ」
「人は慣れる生き物ですから。アポリアも早く慣れさせてあげないと。彼は一番人間になりたがっていますから」
言外に、キミは人間だと言われた気がしてアンチノミーは少しだけ頬をゆるめた。

明くる日、ゾーンはアポリアからの通信を受け取った。ゾーンは手が放せなかったので代わりに動けるようになったパラドックスが向かった。
「やっと来た。遅いぞパラドックス」
頭だけになったアンチノミーと下半身がなくなったアポリアがいた。パラドックスは顔を歪めながらあくまで冷静をよそおって彼らをみた。(機械の彼に嘔吐なんて動作はできないから、あくまでトレースの彼の脳がひねりだした感情だ。)「な、なんなのだねこれは」パラドックスの問いにアポリアが答えた。
「アンチノミーの実験につきあっていたらこのザマだ」アポリアは腕に抱いたアンチノミーの頭を殴った。暴力反対!とアンチノミーは叫ぶ。
「例の、Dホイールとの合体かね?」
「そうだ。いつもはこんなに派手に暴発はしないが、今回は連結方法を少し変えてみて」
「あぁ少し待ってくれ……」
パラドックスはそういうとアポリアたちに背を向けて口元を押さえた。「今とても胸がムカムカして仕方がないのだよ」アポリアが「それは吐き気というものだ」と指摘した。「私にも覚えがある」
アンチノミーが、安心してくれ、とパラドックスに声をかけた。
「人は慣れる生き物だから」
ボクたちも慣れたんだから、きっとパラドックスもそのうち慣れるだろう。慣れる?バカなことを。慣れるはずがない。パラドックスはおおよそ人間の姿からかけ離れた二人を眺めながらそう思った。
そもそも人間はDホイールと合体なんかしない!




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