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依存の海に溺れて

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学校が休みなのを口実に、朝から帝人は臨也の家に来ていた。
どうやらどうしても片付け終わらない仕事が残っているらしい臨也は、
帝人が声を掛けて半ば強制的に食事を取る以外はパソコンの前に座りっぱなしでいた。
その間、帝人はダラダラと一人過ごすのも悪いと思って、
掃除やら食事作りやらをしてみるが、昼ご飯を作り終えて臨也が再び仕事を始める頃にはとうとうする事が無くなってしまっていた。
どうしようかと思案しつつ食事の後片付けを終えて、
取り合えずソファーに座り、仕事をする臨也を眺めてみる。
珍しく真面目な顔をして仕事をこなしている臨也の様子に帝人はふと違和感を感じた。





(あれ・・・何かいつもと違うような・・・)





そう思い、帝人は臨也をまじまじと見つめてようやく気付く。





(あ、そうか・・・眼鏡掛けてるからだ)





あまり派手なデザインではないその眼鏡は自然と臨也の顔に合っていた。
先程の昼ご飯の時には掛けてなかったので、仕事を始める時に掛けたのだろう。
しかし、何故眼鏡を掛けているのだろうか?
今までも、幾度か臨也が眼鏡を掛けている姿を見たことがあった。
けれど、そもそも帝人の知る限り臨也の視力はそこまで悪くは無かった筈なのだ。
仕事中に声をかけるのは少し悪いかと思ったが、帝人は思い切って尋ねてみる事にした。




「あの、臨也さん」



「なに、帝人くん?」





臨也はそう返答しつつも
パソコンの画面から視線を外す事無く、目の前の仕事に集中していた。




「臨也さんって、時々眼鏡掛けてますよね?」




「そうだけど・・・あ、もしかして俺には似合わないかな?」




「いえ、そういう事じゃなくて・・・視力が悪い訳では無さそうなのに
 何でかなと思って・・・」




「元々は仕事で変装する時のための眼鏡なんだけど、
 俺自身結構気に入ってるから普段でもたまに掛けてるんだ。
 だから度は入ってないんだよ」




「そうでしたか・・・」





臨也の返答に、帝人はそう答えた。
そうして少し目を伏せて、帝人は何か考える様な仕草をした。
その間も、臨也のカタカタとキーボードを鳴らす音は鳴り止まない。
しばらくの沈黙の後、帝人は再び臨也に問いかける。





「あの・・・その眼鏡、僕に貸してくれませんか?」



「いいけど・・・どうして?」




「何となくですよ、僕あんまり眼鏡掛けた事が無いんで興味があって・・・」




「うそ、」




帝人の言葉にかぶせる様に臨也は呟いた。
その言葉に、帝人の瞳が戸惑うように揺らいだ。




「何で、そう思ったんですか?」




困ったような、ぎこちない笑みを浮かべてそう言った。
臨也はそんな帝人に笑顔のまま答える。




「顔に嘘だって書いてあったんだよ。
 現に今、動揺してるじゃないか・・・・本当の理由はなに?」




「・・・・・・」




「言いたくない?」




「・・・・・言っても笑ったりしないって約束出来ます?」




「俺が笑ってしまうような事なの?」





臨也が笑顔のままからかう様にそう言ってみせると
帝人は少し無言のままでいた後、




「・・・・そういう意地悪な事言う臨也さんには言いません!」




とすねたように言い返した。
それに少し慌てて臨也はすぐに言葉を返した。





「ごめん、嘘だよ。笑わないから言って?」




「・・・・本当に?」




「本当だよ、」





だから言って?
そう言う臨也をちらりと見た後、帝人は小さく呟く様に言った。




「・・・・見てみたかったんです、」




「・・・何をだい?」




「僕から貴方を奪っていくこの街の景色を、」




(貴方の愛用の眼鏡を通して、)




「貴方が見ている世界を・・・・見てみたかったんです」




(そう、)


眼鏡のしている貴方は、普段の貴方とは少し違っていて、
何だかすごく悔しいですけど、格好良くて。



(何故だか、僕ばかりが、)



貴方をどんどん好きになっていくみたいで、



(貴方への思いに溺れて、)
(僕だけが、貴方に堕ちて行ってしまうのが、)



とても怖かったんです。







帝人が目線を合わせないままぽつりぽつりと呟く言葉を、
臨也はただ静かに聞いていた。
そうして、全て話し終えると臨也は立ち上がり、
ソファーの後ろから帝人を優しく抱きしめる。




「っ、臨也さん・・・?」




驚いたように名前を呼ぶ帝人の声に答える様に、
臨也から確かな温もりと、どこまでも優しいキスが降ってくる。




「ああ、もう・・・本当に君は可愛い事を言うんだから!」



「可愛いとか言うのやめてください!」



「やだよ、」





(だって、俺の恋人はこんなに可愛いんだよって世界中の人に
言いふらしたい位に幸せで、)




「こんなにも、君が愛しくてたまらないんだから!」




本当に柔らかで幸せそうな笑みを浮かべて彼を否定するなんて、




(嗚呼、一体誰が出来ようか)





顔の火照りをごまかす様に臨也の笑顔から顔を背ける事しか、
帝人にはする事が出来なかった。







依存の海に溺れて



(惚れた弱みと言う最大の弱点がある限り、)


(きっと僕は一生あの人に敵う事は無いのだろう)



























作品名:依存の海に溺れて 作家名:白柳 庵