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旅の途中、沙漠にて。

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「あら、めずらし。一人旅?」

聞き覚えのある声がした。振り返れば予想通りの女が居た。
横には目を輝かせている少女もいる。あぁ面倒なことになった。
砂漠のど真ん中、唯一の町でこんな奴らに会うとは思わなかった。
いつもはフードを被って顔を隠していたのだが、こうも暑ければそんなものは捨てたくもなる。
脱いで脇に抱えていた黒のマントを憎らしい思いで見つめた。着ていても憎らしかったが。

「橘さん!パーティ探してるって本当ですか!?」
「魔法使い以外な」

きっぱりと言い放つと巴があからさまに項垂れていた。こいつの専門は攻撃系魔法だ。
そんな彼女をよそに俺は掲示板に上がっている賞金首リストを見ている。
見つめながらも容赦なく降り注ぐ太陽に汗は垂れ流しだ。顎から伝ったそれを革の手袋で拭う。
ちらと二人を見ると、砂漠越えをしっかりと考えた軽装で、うらめしく思った。
勢いだけで飛び出してきた自分とは違う。だが金がないから服装も整えられない。
ブーツも脱ぎ棄てて裸足で歩きたいくらいだ。・・・いや、それは火傷するか。ブーツは正解だな。
どうせなら腕まくりしている服の袖を切ってしまおうか。

とかなんとか思ったところで頭を振った。何の話だ。俺が今気にするのは目の前の掲示板だ。
もう一度意識を賞金首のリストに向ける。どいつもこいつもしょぼい額ばかり。この国も随分とケチになったものだ。
眉間に皺を寄せながら良い値の首を探したがなかなか見つからない。だがこちらも金欠なので必死だった。
なので、彼女らにはさっさと居なくなって欲しいのだが、ミツネが巴を慰めながら質問を続けてくる。

「ほんとどうしたの?別行動中?」
「知るか。黙って出てきた」
「あぁ、喧嘩中ね・・・」

ミツネが呆れたようにため息をついたのが大変面白くない。
適当にリストを板から剥がして、そっちが居なくならないのならこっちから去ろうと思った。
だけど半ばヤケになってリストを剥がしている俺を見て、ミツネをさらに引きつけてしまたらしく。
俺の手を止めながら彼女は心配そうな目を向けてきた。

「ちょっと、あんた一人でやろうっての?無茶でしょ」
「そーですよ!せめて私と行きましょうよっ!」

彼女が心配するのも無理はない。俺は巴と同じ魔法使いの類に入っているが、専門は補助系だ。
そんな奴が誰とも組まず旅に出てましてや賞金首を狙おうなど、死へと出発するものだ。
今にも私たちも一緒に行く、と言い出しかねない彼女らを見て途方に暮れた。
確かに二人はそれなりに強い。男顔負けの武道家であるミツネと最近随分と力をつけてきた巴。
パーティを組むのに不足はないだろう。だが女と旅するのは非常に面倒だ。それはもう、色々と。

「・・・気持ちだけ、」

貰っておく。と続けようとしたが止めた。止めざるを得なかった。
飛んできた「何か」を避けることはできない。避ければ後ろに居る二人に当たる。
そう考えた時には既に構えていた。

金属と金属がぶつかる音がして、足もとに短剣が転がる。
少し遅れて脇に抱えていた黒いマントも地面に落ちて、砂まみれになった。
見覚えのある短剣を見下ろしていると、ふつふつ殺意が湧きあがっていくのがわかった。
こんな馬鹿な事をするのはあの人しかいない。確信をもって思ったその時。

「諸兄、あんたそんなものも使えたの・・・?」
「あ。」

マントに包んで隠していたナイフを右手に持っている俺を見て、ミツネが心底驚いていた。
おそらく、武道家である彼女よりも先に動いただろう俺を、完全に不審に思っている。
まぁそうだろう、一般的にこの世界で魔法使いのポジションはこんなに機敏な動きはできない。
常に後ろに下がって、戦闘要員を影でサポートするのが仕事だ。
巴のように何が起こったのかいまだによく理解できていないのが普通だ。


「さすがに昔の血は鈍ってないねぇ」


突然、男が当たり前のように現れ、俺の足元に転がった短剣を拾った。
そしてそれを自身の腰の鞘に戻しながら、へらりと笑った。
背中に大剣を背負い、この暑い中でもファー付きのコートを着ている男は汗一つ流していない。
あまりにも突然すぎるその男の登場に、俺以外の二人は目を丸くさせている。
気配を消すのはこの人の趣味だ。この神出鬼没ぶりに俺はすでに慣れきっていた。

何となくだ、暑かったし、苛々していた。
それに加えて何事もなかったかのように現れたこの人に殺意が湧いた。

もう一度、大きな金属音が響いた。



「背中のを使ったらどうです、フヒトさん」
「やぁだな、これ使ったらお前でも死ぬよ?」
「試してみます?」

俺のナイフとフヒトさんの短剣がぶつかったまま時々火花を散らしている。
鉄と鉄がこすりあうあの嫌な音がキイキイと耳についてくる。
こうしている間にも日差しはさんさんと降り注ぎ、汗はどんどん流れている。
砂漠のど真ん中の町、俺が旅してきた中で一番暑いはずだった。


「駄目だ」


それが急に冷える。冷たい視線に汗が止まった。
気付けば俺は彼の短剣をはじき返していた。頭で考えるよりも先に本能で動いた。
肩で息をして、少し遅れて汗が噴き出る。暑さが原因ではない。
何の感情も表せない彼の両目から視線をそらせない。そらしたら終わる。
昔、何度も経験した死にかけたいくつもの場面を思い出していた。今の空気はそれに似ている。
荒い呼吸を繰り返していると、フヒトさんが急に両手を叩いて頭を下げた。
その手を打つ音で、一気に緊張の糸が緩んだのがわかった。


「ごめん!ほんとに悪かった!!」


彼のこの言葉に脱力しまくった。後ろで緊迫していた彼女たちも漸く胸をなでおろしたことだろう。
フヒトさんの頭を叩きながら、肩越しに彼女たちを振り返る。視線だけで謝罪してその場を後にした。
ざくざくと砂をかき分けて歩く。後ろから「もろえ~」という情けない声がする。
はぁとひとつため息をついて俺は振り返らずに言った。


「俺のマント拾ってきて下さいね、」


嬉しそうにかけてくる足音を聞きながら、俺は先ほどの視線を思い出さないようにしていた。
本当に恐ろしい人だ。でもその恐ろしい人の隣を選んでいるのはなぜなのだろう。
先ほどの賞金首リストを思い返す。赤字で書き直された金額は馬鹿みたいな値段だ。
そんな馬鹿みたいな金がこの人の首に懸っている。どケチな国が何年も懸けているのだ。
俺の隣で無邪気に笑っている人に。


「なんかこの町ってずいぶん暑くない?」
「今気付いたんですか」
作品名:旅の途中、沙漠にて。 作家名:しつ