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一日の始まり

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カーテンの隙間からのぞく光に当てられて、その眩しさにロヴィーノは薄く眼を開く。
ぼうっとした頭のまま上体を起こすと、ロヴィーノの肩に巻きつくように覆いかぶさっていたアントーニョの腕がだらりと布団に沈む。


いつもは面白くないことに親分風を吹かせて自分の上に立っている彼は、眠っている時だけは独占欲の強い子どものようだ。布団に落ちた彼のゴツゴツした大きな手にロヴィーノが自分の指をからませると、思いの他強い力でぎゅうと握りしめられる。自然と口元に笑みが浮かぶのが止められなかった。
この部屋にいるのはたった二人だけ、誰にとがめられるわけはないのになんだか気恥ずかしいような心地になって、ロヴィーノは小さく咳払いをした。


初めてアントーニョの家に来た翌日の朝、一人で眠っていたはずの自分を抱え込むようにして眠る彼を見て、驚きのあまりに大きな叫び声をあげて頭突きをしてしまったことをふと思い出す。警戒心をむき出しにして顔をひきつらせる自分を見て、ごめんなぁ驚かせてしもたな、とお腹をさすりながら苦笑する彼の顔が頭に浮かんだ。後日、なんで彼が自分と一緒に眠っていたかと問えば、あの日アントーニョが一人で眠るロヴィーノを心配して様子をのぞいた時に、ベットサイドについたアントーニョの手をロヴィーノが握りしめて離さなかったからだと言った。

『それ見とったらなぁ…なんか守ったらなあかんって思ったんや。』

そう聞かされたときは、無意識の行動とは言え顔から火が出るほど恥ずかしかった。さっさと手を引き剥がして一人で寝れば良かったじゃねーか、とロヴィーノは思った。しかし、こうやって実際に眠っている彼から手を握られると、あの時の彼の気持ちが分からなくもない。体温が高くしっとりと汗ばんでいる彼の手は不快ではないし、すがるように握りしめられるこの手を振りほどくのはためらわれる。意識はなくとも、自分をそばに置こうとしているのだろうかと若干の温かい気持ちも湧きあがる。まあ確かに悪くねぇな、と頭の中で呟いてロヴィーノは目を細めてため息をついた。


気づいたら自分の生活の中にはずっと彼がいて、一日一日を何年も積み重ねて今ではこんなに近くに彼がいる。
ゆっくりと築かれてきたアントーニョとの関係は、あえて言葉にするようなものじゃないと自分は思っている。親であり、兄であり、友達のようでも、それ以上でもある。彼を恋人と呼ぶのもいいかもしれないが(あいつは自分を恋人だと断言したがるが)、今更彼を恋人らしく扱うなんて照れくさくてできやしない。


この家で寝起きすることが決まった時はあんなに嫌だと思っていたのに、いつからだっただろう。
一緒に寝るのは嫌だと毎日追いかけっこの末に疲れて眠ってしまっていたはずなのに、気づいたらアントーニョが傍にいないとなんとなく不安を感じるようになっていた。
眠いのなら無理に起きていなくてもいいのに、あくびを隠しながらずっと自分の話に相槌を打つアントーニョを見ると、なんともくすぐったい気持ちになった。
触られるのは嫌いだったのに、自分を寝かしつけるように髪をなでてくれる手を受け入れていた。
「Hasta man~ana.」(また明日な)
アントーニョがそう言うのが自分にとって一日の終わりになった。
それは、いつからだったのだろう。
そうしていつしか、この寝起きの悪い彼と共にいつも通りの朝を迎えることが、自分のちょっとした幸せになってしまっていた。


「Sveglia…」

早く起きろよ。自分も小さく伸びをしながら呟くと、今度は背中を丸めて、握られた彼の手の甲に口づける。わずかに身じろぎ、それでも目を開けないアントーニョを見て、叩き起してやりたいような、このまま起きるのを待ってやりたいような、相反する気持ちがわき出る。
焦るような気持ちになったところで、急に自分は意外と単純な奴なんだと気づいて可笑しくなった。

結局のところ、彼が目を開けて自分を見て笑ってくれれば、ロヴィーノはそれで満足なのだ。







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「一日の始まり」2011.2.22

作品名:一日の始まり 作家名:こうめ