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日永ナオ(れいし)
日永ナオ(れいし)
novelistID. 15615
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有り合わせの儀式

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 広大な敷地がすべて焦土と化するひどい戦いだった。
 ただし、一言に広いと言ってもほとんど開拓などされておらず、ただ所有されているというだけの話だ。言ってしまえば家の裏山まで敷地という大まかなくくりだ。
 それを所有していたマフィアは今ここで根絶やしにしようとしている。
 沢田綱吉がボンゴレというマフィアのボスに着任してから小競り合いは頻発し、そろそろ片手で数えきれないくらいの抗争が起きている。
 ある程度手慣れてはいるが、今回ばかりは、さすがにもう無理かな、と綱吉は考えた。
 敵の籠城は未だ続き、事態の早急な鎮静化を最優先に事を進めてきたが、急ぎすぎてしまったのかも知れない。
 綱吉の視界の先には、澄んだ青空に黒煙を上げる山だ。その山の土にはたくさんの血が吸い込まれている。あらゆる負の感情を伴って。
 流された血の持ち主は、あの煙に乗って空まで昇れているのだろうか。この期に及んで傲慢な考えだとわかっていながら、綱吉はやはり思いを馳せずには居られない。
「俺は何か間違ってたと思う?」
 元は納屋だった瓦礫の山に背を預けるようにして身を隠しながら、綱吉は尋ねた。隣では骸が、敵の籠城する屋敷の様子をうかがっている。
 双方、仕事着であるスーツはぼろぼろになり、顔には血や土や煤が付いている。
「君の間違いなんか、多くて数えきれませんよ。間違うことだけは免許皆伝じゃないですか。そんなことより、帰ったら食べたい物を言って下さい」
 限られた視界の中で、骸は目標を静かに見据え、隙を窺っている。
 直線距離ではそう遠くないが、攻撃対象までは障害物が多く、幾度もの交戦でまばらにはなったものの、木々が行く手を塞いでいる。
 遠距離武器はまず上空でないと届かない。接近戦に持ち込むにはリスクが高すぎる。
 綱吉は綱吉で、隣にいる骸には視線も合わせず、虚空に消えていく煙を眺めながら答える。
「まずラーメン。あとはトンカツ。俺は甘いのはいらない」
「じゃあ僕はハニートースト、クリーム大盛りで」
「牛丼じゃないんだから大盛りとか言うなよ……」
 ため息交じりに綱吉が言うと、骸はやっと偵察の姿勢を解き、同じように瓦礫の山に背を預ける。
 そっと綱吉が横顔をうかがえば、疲労が色濃く見えた。長い髪は艶を無くし、表情も幾分か暗い。
「疲れた時は甘いものですよ」
 ゆっくりと言葉を吐き出す。その視線は遠く、骸もまた、綱吉が見ていた煙を見つめているようだ。
 つられるように綱吉もまた、正面に視線を送る。煙はまだ二人を見下ろしていた。
 また遠くで爆音が聞こえたが、どちらかの威嚇だろうと推測する。
 少数のボンゴレ陣営の人間には、もう動けるものはほとんど居らず、敵もまた、首の皮一枚で、こちらの残党に討たれることを恐れているのだろう。
 たとえばここにいる二人の人間などに。
「そりゃそうだけど、甘いにも限度がある」
「空腹の胃に揚げ物を候補として挙げる君も大概ですよ」
「生きて帰っておいしいもの腹いっぱい食べて次に備えるんだよ」
「そういえばこの前は帰るなり倒れて、食べ損なったんでしたね」
「そう。だから前回のとんかつを繰越で追加。今回のメインはラーメンで」
「あとは何にします?」
 炙り出しの威嚇など意に介さず、二人は帰ってから食べる物の相談をしている。
「んー、俺はあとは、ぐっすり眠ればそれでいいかな」
「君はいつもそれで終わっちゃいますよね」
「お前も同じように寝て終わってるの、俺も知ってるけどな」
 チッと骸は舌打ちした。綱吉はしてやったりという表情で、隣を見上げたが、目が合った途端に不快そうに顔をしかめられた。
「そういえば何回目でしたっけ」
 言いながら骸は、肩に担ぐようにしていた愛用の三叉槍を、慣れた手つきで、座ったままくるりと一回転させる。地面に矛先を向けると、素早くそれを落とした。
 表しがたい音の後に、偵察用だと思われる匣兵器が、槍に貫かれ、地面に縫い付けられている。
「六回か七回くらい。もう覚えていられないよ」
 綱吉はそれを一瞥したものの、とくにリアクションも見せずに、肩をすくめて骸の問いに答えた。もっとも、だれた格好で寄りかかっているので、微妙な変化にしかならなかったが、雰囲気だけは伝わったようだ。
 その言葉を聞き、骸も思案するような表情になったが、数に異を唱えることはないようだった。
「まぁ何回目にせよ、今回は僕が行きます。異論は?」
「ない」
 綱吉は即答した。口元には笑みが浮かんでいるが、眉根が下がっている。諦観を含んだ笑み。彼の右のふくらはぎと脇腹には、銃弾に貫かれた傷跡がある。今も出血は止まっていない。
 反して骸は、左腕をばっさり切られているがそれ以外に深い傷はない。
「では生きて帰れたら、ハニートースト、クリーム大盛り。期待してます」
「生きて帰れたらな。安い店にしろよ」
「ええ」
 槍を支えに骸が立ち上がりかけたところで、綱吉が彼の服の袖をつかんだ。
 怪訝な顔をする骸に、綱吉はむっとした表情で訴える。
「忘れ物があるんだけど」
「……ああ、またやるんですか」
 そこでやっと思い出したというように骸は言うが、敢えて忘れていたことだとは、綱吉にもわかっていた。
 二人で行った抗争でのやりとりから始まったことだ。
 綱吉はつかんでいた袖を離し、グローブのはまった手を軽く掲げる。骸はそれをそっと握り締め、言った。
「では、また来世で」
「また来世で」
 お互いに同じセリフを送りあって、手を離した瞬間に骸は素早く駆け抜けていった。
 消えていく直前のその顔には、昔と変わらない自信に満ちた笑顔があって、まだやっぱり死ぬときじゃないのだと、そこでようやく綱吉は確信できる。