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滅び方くらい知っている

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そういえば最近、見え方が悪くなった、と。あーちゃんに言われたのもあってか(奥村さん、その睨み方おじいちゃんみたい!)思い切って眼鏡を新調した。
「うん、よく見えるよ」
新しい眼鏡を掛けて帰ってきたらシンがその大きな体で出迎えてくれた。たくさんの買い物袋を抱えてくるのをわかっていたのだろう。(僕は滅多に買い物に出ないから)
「おかえり」
「うん、」
ここは確かに僕の家なのにまるでシンがずっと暮らしてきた家みたいに言うものだから、いつまでたっても僕はお客さんの気分が抜けない。
シンと二人で買い物袋の中身をしまう。シンがニヤニヤした顔で指をピースにして「これ何本に見える?」って聞くから「君がそれを2本だと思えないのなら病院に行くことをおすすめするね」、と言ったらあんまりおもしろくないと笑われた。
「あーちゃんはどうしたの?」
「散歩だと。最近お前の真似してカメラ首から下げるのがお気に入りみたいなんだ」
「そう、」
片付けがひと段落すると、何も言わずにシンが珈琲を入れる。シンの入れる珈琲は正確に似合わず繊細な味がする。まあ、インスタントだけれども。
「静かだね」
あーちゃんがいないととたんに昔に戻ったような気がした。
昔って、一体そんな大層な昔がどこにあったんだと思うも、僕にとってこの静けさは彼を思い出させるのに十分だった。
「なあ、暁の滞在もう少し延ばせないかな」
「え、どうして?」
「どうしてって……」
僕はシンの優しい言葉にいつもとぼけたように返す。それが決まりになっていた。シンも肝心なところは突かない性格だ。
「寂しいけれど、あーちゃんとはそろそろばいばいだよ」
シンはまだ何か言いたげだったがそれっきり口を閉ざして、なんだか僕を見つめつつ、だけど全然違う何かを見つめていた。ずーっと。
そういうときだけ、僕は君が傍にいるんじゃないかと錯覚する。シンは君を見るときちょっと険しい顔をするんだ。それは、絶対に、僕に向けてじゃないことぐらいわかる。
(もう届かないこの腕は、君の手を引いた感触すら忘れてく)
(本当は、僕は君に触れたことなどなかったのかもしれない、などと)
忘れることは、何より恐ろしいことなのに。この珈琲を飲み干す頃にはきっとあーちゃんも帰ってくるのだろう。そのときにはまたシンが、玄関に立って我が物顔で「おかえり」と言うのだ。僕はそうしてまた静かな時間が訪れるのをじっと待つ。もう君が僕を迎えに来てくれることはない。だから。
(今度は僕が君を記憶の底へ、迎えに行くよ)

「似合うかい、僕の新しい眼鏡」
「え、あ、……まあ、」
「───そんな顔で見ないでよ、シン」

「……英二、」

(僕だって、自分の滅び方ぐらい知っている)