雑種ですから可愛くはなりませんよ、とクロードが言った。悪魔には可愛いという言葉は驚くほど似合わなかったが笑う気分にはとてもなれなかった。可愛くならないことくらいアロイスだって知っている。たまに硬くなったパンの切れ端をやっていただけなのにいつの間にか懐いてしまった野良犬を捨てることの難しさも、こちらはちっとも悪くないのにどうしてか責められているように感じられる不快さも。てのひらの中の毛玉は傷ついて、小刻みに震えていて、目脂が溜まっているせいで瞼を開けることさえ出来ない命の弱々しさはアロイスにはどこまでも苛立たしいものですらある。そしてクロードもそれを見抜いているに違いない。見抜いているくせにアロイスの望みはいつだって察してくれない、冷たく光る金色が問いかけるようにこちらを向いた。「私は構いませんが」わざとらしい間が置かれ、「失礼ですが、育ったあとのことはお考えに入れていますか」「まさかお説教するつもりじゃないよね、クロード」「ええ、しかし……」「俺は最初っから世話する気なんてないもの。活かせてって命令してるだけ」「はあ……」「ほら」どろどろのそれをアイロンが綺麗に掛かった手袋に押し付けて背中を向けた。クロードが歩き出す気配はない。アロイスを呼び止める気配もない。それでも部屋に戻るまでは息を詰めたままで、ベッドに仰向けに倒れこんでようやく大きく息を吸う。窓の外は先週から止まらない雨の音。泥まみれになった庭からつまみ上げた侵入者を、ほんとうはそのままにしておくはずだったしそうするべきだった。けれどアロイスはほんの思いつきから仔猫を拾いあげてあまつさえ屋敷に入れた。絨毯には点々と泥の跡がついた。雨に直接当たったのはマントだけなのに、抱えていたせいで今やシャツまでがすこしべとついて気持ち悪い。(最初っから可愛くなかったよ)今更のように後悔が押し寄せてくる。(動物の魂?)あるかどうか分からないそれに思いを馳せてみて、たぶん美味しくないんだろうとひとり見当を付けた。単純すぎるものはきっと悪魔のお気には召さない。アロイスが時たま起こすこんな気まぐれさえ彼奴にとってはスパイスにもならない。(そういえば、あいつに猫の助け方なんてわかるんだろうか)思い当たっても身体を起こそうともせずに、やはりシーツにしがみついたままでいた。だって、生きながらえさせてほしいとアロイスは望んでなんかいない。それにもしも死なせてしまえばあの言葉を口にすることが出来る。ねえ、助けるって言ったよね。