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風邪ひきユーリさんと看病フレン

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ピピ、と微かな電子音がくぐもって聞こえた。その音に気付いたユーリが自分の脇に挟んでいた体温計を取るより早く、腕を持ち上げられて素早く体温計は引き抜かれてしまった。画面を見たフレンが、僅かに顔を顰める。
「七度八分、か。病院には…」
「薬飲んだら治ると思ったんだよ」
「行けって言ったじゃないか」
 べし、と額に貼った冷えぴたを叩かれる。思いのほか今回の風邪菌は強かったらしく、市販の薬では良くはならなかった。ぞくりとやってきた悪寒に身震いして、ユーリは毛布にもそもそとくるまった。
「明日、担いででも連れて行くからな」
「へいへい」
 口調は怒っているようでも、頬に触れてくるフレンの手つきは優しい。苦笑しながら、ユーリはその感触を楽しむ。いつもはフレンの方が体温は高いのに、今日は熱があるせいで火照った頬には心地よくて、離れようとするフレンの手に擦りよるとフレンは困った様な顔をした。
「ユーリ、あまりかわいい事をしないでくれないか」
「……」
 そう言って頬を染めてそっぽを向くお前のがかわいいんだよこの野郎、とユーリは胸の内で悶絶する。今すぐフレンをベッドに引きずり込んでいろいろしたかったが、それを実行に移す体力が無いのが恨めしい。熱でぼやける頭で、ユーリはフレンの手のひらにキスだけしておく。フレンの手がぴくりと跳ねて、予想以上の反応を返された。
「ユーリ…」
 名前を呼ばれるのと同時にベッドが軋む。相変わらず、困っているのか恥ずかしいのか落ち着かない表情をしたフレンが覗き込んで来る。その近さに何がしたいのか分かってしまって、ユーリは笑って息をついた。
「……風邪うつっても知らねぇぞ」
そう一応注意してみるが、実のところあまり心配はしていない。何故ならフレンは数年に一度の割合でしか風邪をひかない、鉄壁の防御力の持ち主だからだ。ユーリは誘うようにフレンの髪を撫でた。

フレンはもぞもぞとフローリングの上に正座をして居住まいを正したが、キスの余韻を完璧に拭い去ることは出来ていなくて、纏う雰囲気がなんだかエロい。フレンをベッドに引きずり込んでいろいろしたい元気が無い自分が、本当に恨めしい。朝より酷くなった気がする頭痛と現状にぎりぎりと歯噛みすると、フレンがあからさまに部屋の空気を変えるように訊いてきた。
「そ、そういえば、お腹空いてないか?」
「食欲ない」
「でも、何か食べないと」
 雑炊でも作ろうか、と提案するフレンにユーリはあぁとかうぅとか曖昧な返事を返す。食欲が無いのは本当なのだが、こうして風邪をひいたときに作られるフレンの料理は打倒風邪の気合が入りすぎていて、雑炊といえど油断できない。弱っているときにレシピ外れの味付けはきつい。普通に作ってくれればいいから、何も入れなくていいからな、絶対だぞ、と念を押してみても、ユーリはきらきら瞳を輝かせて部屋を出ていくフレンが不安で仕方なかった。