ぴかぴかひかる
暗闇が怖いと、静かに俺の手を取る蓮二の睫毛が少し、震えていた。
「よく、悪い事をした時に押し入れの中に閉じ込められたんだ」
「ああ、俺もよくやられていたな。」
俺の肩に頭をのせて、静かに話す蓮二。
脳裏に浮かんだ蓮二の父親の温厚そうな顔を思い出して人は見かけによらぬものだと実感した。
夏が終わろうとしていた、外の蝉はいつの間にか少なくなっていて、夜になると風が冷たい。縁側に腰掛け足を放り投げた蓮二が俺に甘えるようにすりよってくる。
「蓮二は、猫のようだな」
「そうか?げんいちろうは犬みたいだ」
蓮二は眠そうに言った。
一度もこちらを向こうとしない、俺は上から蓮二の顔を覗くだけ、風鈴の音がキラキラと星屑のように降り注ぐようだ、そんな音を聞いていると次第に俺の方まで眠くなってくる。
夏休みは今日で終わり、明日から学校で忙しない毎日が待っている。宿題も終わらせたし明日の用意だって整っている。しかし蓮二は不安げに夜を見つめたまま戻ってこない。
「れんじ」
「ん」
俺は思い切り蓮二の肩を抱いて自分の胸にすっぽりとおさめると蓮二はクスクスと笑う、何がおかしいのだ。と聞くが蓮二は答えてくれない。
「なんなのだ・・・急に笑いおって」
「俺は、どこにもいかないよ弦一郎」
ぎゅっと腰に腕を回されて力強く抱きすくめられる、痛い、と言う暇もない。
「そんな事!気にしてはおらんわ!」
「なんだー」
そのまま服に手を入れられて腹筋を蓮二の長い指がなぞっていく、いつもなら抵抗するものの、今日の蓮二は少しおかしい。
くすぐったいのを我慢しながら俺はじっと蓮二を待った。
「なんだ、抵抗しないのか」
「抵抗、してほしかったのか?」
「んーん。」
蓮二は子供っぽく首をふってもう一度強く俺を抱きしめた。
「夜が怖い。」
胸に顔をうずめた蓮二のくぐもった声が俺の耳に届いた。夜が怖い、暗闇が怖い。腰に回された手がはなれていこうとする、俺は黙ってその手をとって指を絡めた。
「どこにも行かない。側にいる。」
「本当か。」
「本当だ、嘘はつかない。」
「そうだな。」
蓮二は俺の顔をみつめてそっと口づけてきた。子供っぽく、ついばむような。
「れん・・・」
名前を呼ぼうと口を開いた所で、蓮二は俺の膝に頭をおいてもう既に眠っていた。
不安で眠れなかったのだろうか、蓮二の髪の毛をひとなでするとふっと蓮二の寝顔がほころんで笑っているように見えた。
「こんな所で寝ては風邪をひくだろうに」
蓮二を抱きかかえ、布団に転がす。自分の布団を蓮二の眠る布団にくっつけて俺ももう眠る事にした。
絡めた指をそのまま、明日になって夜がきて、また日が上って夜がきても、それでも俺はお前の側にいる。暗がりに独りにはしない。そんな事をひとり決意しながらそっと目を瞑った。
END