キスしないと死んじゃう呪い
それはうんと前の先祖の先祖のそのまた先祖、何をやらかしたのか接吻をしなければ生きて居られない呪いだ。柳家の人間は古くからその呪いを背負い生きている、しかし接吻など愛した人間とすれば簡単な事。一年に一度必ず接吻をしなければ死ぬ。俺の家族はそんな呪い痛くも痒くもないと笑った。
それはそうだ、母には父がいるし父には母がいる、俺の姉だって彼氏がいるのだから接吻なんてすき放題だ。
しかし俺にはそれが重い呪いだった、小さい頃は母が俺に愛情表現の接吻をしてくれたりしてたからいいとして今はもうだめだマザコンの域を越えてしまう。それに俺は女性が苦手で彼女もいない。おまけに潔癖症、接吻などと言う行為は口内を雑菌が何百何千と行き交う行為でしかない、だから俺にはその呪いが死活問題なのであった。一昨年は飼っていた老猫と接吻をし命を繋ぎとめ、昨年は告白してきた女性と接吻を交わしたもののそのあと直ぐに吐いて女性に殴られて終わった。
あんな頬の痛みは二度とごめんだ、そして前回の接吻からもうすぐ一年たとうとしている。
そしてそんな死の淵をさ迷う俺を横目に真田弦一郎は黙々と日誌をかくのであった。ああ今俺はギリギリの所に居るのになんて事だろう、いっそこの呪いの話を彼にしてみようか、どうしよう。
家が違いと言う理由で毎日のように一緒に帰ってはいるがそんな呪いの話はしたことがなかった。果たしてこの男に相談した所でどうなることでもなかろう、来年再来年もまた俺は猫や犬を捕まえて接吻をして生き繋ぐのだろう。
それを考えるとなんともシュールな光景でありそして俺は揺るぎない変態になるわけだ。
どんな事情があれ、毎年のように犬猫と接吻するような人間を端から見てしまえば「おやあれは柳さん家の息子さん、犬猫がとても好きなのね」ではすまなくなる。
家ですればよいというだけの話だが生憎長年に渡り柳家を見守ってきてくれた老猫も昨年の夏に安らかな眠りについた所だった。よって俺に繋ぎはない。終わってしまう、絶望だ。
「弦一郎」
そして俺は何を血迷ったのか弦一郎の名を呼んだのだった。どうしてそこで呼んでしまったのかは解らないとにかく不安だったのかもしれない。
しかし呼んだのはいいとして俺は次の言葉を用意していない。
「キス、しないか。」
「は?」
そりゃあ「は?」だろう。訳が分からない。まるで「やらないか?」の誘い方である。全く自分の言動がつかめていない。死ぬかもしれないと言う恐怖心からだろうか。
そして何故だろうか弦一郎の頬が勘違いでなければ少し赤い気がする。それはどういった反応なのだろうか。お前はまさかこの俺に恋心を抱いていると言うのか、いや、ただ単にお前はキスと言う単語に過剰に反応を示しているだけなのだろうか。もごもごと顔を赤らめて何故お前と接吻など!!!と言う弦一郎が俺もそこはかとなく可愛く見えてくるものだから手が終えない。
「弦一郎、」
そのまま引き寄せて無理に唇を奪ったものだから歯と歯がぶつかっていたかった。不思議な事に吐き気はない。これはどう言う事だろう、もし弦一郎がいいのなら、また来年もお願いしたいものだ。
END
20100517
作品名:キスしないと死んじゃう呪い 作家名:Rg