A-BOUT!
あ、という顔がこちらを見ているので、あ、という顔でこちらも見てやった……わけがねえだろ。
「てめえ……!」
「鍵ぐらい閉めておけ、俺が留守番してなきゃならねーじゃねえか。それにお前の部屋なんなの、意外すぎるくらい綺麗で突っ込みしようがねえよ。あとエロ本はもうちょっとわかりやすいところに隠せ、探すの大変だからな。それからお前の部屋こんなしけったポテチしかないのかよ」(バリボリバリボリ)
なんでエロ本捜してんだよ、とか勝手に俺のからむーちょ食うなよ、とかそんなしけってねえよ出かける前に開けたばっかりなんだからよ、とかいろいろ言いたくて結局青筋浮かせただけで言葉に出来るわけもなく、すぐそこのファミマで買ったポカリとマガジンを袋ごと目の前の男に投げつけてやった。しかしそんなものこの男には大したものなわけでもなく、キャッチするとわかっていたように袋からポカリを取り出して勝手に飲みやがる。やっぱり「っち、」と舌打ちして相手が陣取っているベッドから転がり落してやった。
「何すんだよ、」
「こっちのセリフだ。なんでてめえが人の家のこのこ上がりこんでんだよ」
改めて相手が向き直ったところで拳を突き付けた。
「砂原」
はあ、と言うだるそうな溜息で俺の拳は下ろされた。ポカリとマガジンを投げつけてやった時ほど本気の殺意はないのでそれに抵抗はしない。
「いちいちうるせえな、行くとこなかったんだよ」
「……てめえ他に友達いねえのか」
「お前に言われたくないね」
はあ、と今度は俺が溜息をついた。どうして俺の部屋なのに、俺が気まずくならなきゃならないのだ。「っち、」舌打ちが癖づくのはよくないと遠い昔に祖母に言われたことをおぼろげながら思い出した。俺は立ち上がると砂原に背を向ける。
「どこいくんだよ、」
「お前のいないところ」
「は、いまどきそんな」
「鍵、下駄箱の上に置いとくから、ちゃんと閉めとけよ」
駆け足で階段を下りて、踵を履き潰したローファーを引っかけて、全力ダッシュなんてかっこわりいの。砂原の声が聞こえないところまで、走った。
(気まずいとか意味分かんねえよ)
(大体、俺の方が、砂原より、)
「……柾木、お前俺のこと信用し過ぎだろう」
(バリボリバリ)取り敢えずこのからむーちょ食べたら探しにでもいくか。