Sunday People
「会って欲しい人がいるんだけど」
「なにそれ?兄貴結婚でもすんの?」
まぁ、そういうことになるのかならないのか…と言葉を濁された。兄貴の年じゃ結婚するのもおかしくないと思うんだけど、何をそんなにためらう必要があるんだ?もしかしてすごく性格が悪いとかメシの食い方が汚いとかでおっぴらに親に紹介できないとか?うーん、確かに兄貴はそういうタチの悪い女にひっかかりそうなイメージはある。で、まず俺で試そうと、そういうわけ?
「お前なら少しは理解してくれるかなって」
兄貴に頼られるなんてこれが最初で最後なんじゃないかと思った俺は二つ返事で待ち合わせ場所と時刻をメモした。
俺と兄貴はもう戸籍上は他人なんだけど、結婚したら血の繋がり的にその女は俺の義姉さんになるわけだ。しかもどこか相当いただけないところがあるのに一緒になりたいのか。うーん、兄貴のシュミがわからない、もしかしてマゾなんじゃないか。俺はあらゆる類の悪い女を想像しつつ待ち合わせのファミレスへと急いだ。
兄貴の隣にビミョーな面持ちで座っていたのは、見知ったあいつ。
「あれぇ、お前なんでここにいるの?」
「フミキこそ今日会社休みじゃないんじゃねーの?」
「休みじゃなきゃまだ働いてるよー」
フミキと俺は同じ会社で働いている。俺はバイト、フミキは前はもっと大きな会社にいたんだけど、身体を壊して以来派遣社員としてここにいるようだった。社内での立場が似ているせいか俺たちはすぐ仲良くなり、一緒にメシ食ったり、夜食の買い出しに出かけたり、兄貴にはしないような男同士の相談までした。兄貴と同い年なのに兄貴より話しやすい年上の友達は俺の中で親友といってもいいくらいの位置に値している。
…で、なんでそのフミキがここにいるわけ?
和気あいあいとする俺たちとコントラストを激しくし、兄貴は神妙な面持ちでこちらを見ている。
「水谷」
そーそー、フミキって水谷って名字だったなぁ。
「これ、俺の弟。」
フミキの顔が一瞬にして凍りついた後、慌てて兄貴に詰め寄った。
「えええええ!ていうか名字違うじゃん!」
「こいつだけ母方のほうに戸籍があるんだ」
へたりとテーブルに這いつくばり、潰れたカエルのような声を出してフミキが黙ってしまった。
俺はさっきから必死に結論を考えないようにしている。兄貴の電話、このセッティング、フミキの反応。これはきっと知らなくてもいいことだと本能が訴えかけてくる。
「さっ、かえぐち、やっぱやめよ!なっ?」
「いや、いつかは言わなきゃいけないことだから」
覚えてる、その変に頑固なところ。一緒に住んでた頃は疎ましくもあり、また羨ましくもあった。兄貴は一本芯が通った人だっただから、こういう時でもちゃんとしたいのだろう。今はやめて欲しいけど。
「落ち着いて聞いて、な?」
でも正直俺にはまだ心の準備が足りないよ、ゆうとにいちゃん。
「俺、水谷と一緒に生きていきたいんだ」
あの真面目で面倒見のいい兄貴がこんな冗談を言うとは思えない、つまりこれは本気の本気なのだ。
顔色をちらりと伺ってきたフミキが見たことも無いくらいどうしようもない表情をしている。きっと俺も同じような顔なんだろうな。
どんな悪い女だろ?と思い描いてた覚悟なんてこれっぽっちも足りなかった。
俺の兄貴の恋人は、…もうなんだっていい…、男以外なら。
作品名:Sunday People 作家名:さはら