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鉄の棺 石の骸番外1~好きこそ物の上手なれ~

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Z-oneとアンチノミーの二人が、筋金入りの遊星ファンという設定で小話。

――以下、お好きなサウンドトラックをかけてお楽しみください。――
――最近よくかかる、Z-oneやイリアステルの曲辺りがお勧めです。――


――『だが俺はレアだぜ』―― 遊星語録(KC出版・全154巻)第86巻より抜粋。


 Z-oneとアンチノミーが、小さなデュエルテーブルを挟んで向かい合っていた。
 二人から立ち上る並々ならぬオーラは、傍から見るとネオドミノの最終決戦に引けを取らない真剣勝負、なのだが。


「先行は私が貰います。私のターン! 私は二枚ブロマイドを伏せて、月間デュエリスト付属の応募葉書を通常召喚! この応募葉書はアンケートに答えることにより五十円切手なしで、景品を一品アドバンス召喚できる! 更にこの応募葉書をリリースし、遊星Tシャツ(抽選で五十名様にプレゼント)をアドバンス召喚! ターンエンド!」
「僕のターンだ!……ならば僕は、魔法カード「定期購入」を発動! この効果により、連続企画の応募券を全四カ月分確実に特殊召喚! そして応募券四枚に通常召喚した応募葉書をチューニング! (中略)カモン! Aコース-遊星の生サイン色紙(一名様)!」
「なるほど……そうきましたか……」
 何のことはない、遊星グッズの自慢決闘だ。二人は、テーブルに遊星グッズカタログを何巻も広げて、かつて自分が所有していた遊星にまつわるグッズを相手に披露しているのだ。
 お互い、ファン歴は人生の大半という長い筋金入りなので、誤った入手方法を披露すると即座に相手からきついツッコミが入る緊迫感溢れた決闘だった。
 もちろん、二人はそんなへまをするような遊星ファンではない。これは遊星に対する愛と誇りを賭けた闇の決闘なのだ。
 グッズそのものは、機皇帝や人類滅亡といった大混乱の中で既に亡い。なので、披露するのは品目と入手経路だ。
……一部、自らの手で葬ったグッズもあるが、それについて指摘するのは止めてあげて欲しい。本人はすごく気にしているだろうから。

 決闘は、遊星モデルのレアカード(世界に一枚)だのライディングスーツ旧モデル(チャリティーに出品)だの、世の遊星ファンがこの世に生きていたら垂涎ものだったであろうグッズをどんどん披露していく。
 ターンはZ-oneに回って来た。Z-oneはやけに自信たっぷりにターンを宣言した。
「私のターン! 私は、手札からトラップカード「科学者のコネ」を発動! このカードは、自分の財産を半分支払い、一般市民には手に入らないプレミアものをデッキから特殊召喚することができる! 遊星の人格データをデッキから……」
「ちょっと待ってくれZ-one! それは手札からトラップ以上にインチキ効果じゃないか!?」
「えー」
「第一、それは遊星グッズカタログ(全八巻・続刊予定は人類滅亡により未定)には載っていない代物だろう! メタイオンクラスのプレミアなら倒されてもまだ納得いくが、犯罪すれすれのすごい奥の手カードクラスの品を出すのは止めてくれ! 世が世なら僕たち、手が後ろに回るぞ!」
「……分かりました。いいでしょう。ならば私は、官製葉書千枚の束を通常召喚し、この効果で世界大会・子ども部門の参加権を特殊召喚! 更に、この参加権を日々の努力と決闘の研究とともにリリースすることにより、子ども大会優勝と、トロフィーと、盾を一体ずつ特殊召喚! このグッズを一つの人間にまとめることにより、私は最高級プレミアグッズ「不動遊星と記念撮影――その場でサイン付き・私のフルネームを添えて」をアドバンス召喚!」
「最高級プレミアグッズ! 本当にそんなグッズがこの世に存在するのか!……何々……嘘、本当にある……」
 カタログをべらべらめくって見つけたページに、アンチノミーは愕然とした。特徴のある蟹頭が、怖いくらいの幸せオーラを振りまく少年の傍で、どこかぎこちなさそうにポーズをとっている。
「ちなみに、不動遊星の右で、彼と手を繋いでにこやかにピースしているのが私です。遊星に利き腕を繋いで、と指定したのは私なりのこだわりです」
「貴重な裏情報、どうもありがとう!――くそっ、今僕が思い出せる中でこれに匹敵するグッズはない……!」 
「私の勝ちですね」
 カタログをばたんと閉じて、Z-oneは高らかに自分の勝利を宣言した。アンチノミーは、わなわなと身体を震わせ、既に涙目だ。
「Z-one! 次こそは必ず君に勝つ! 必ずだ!」
「楽しみに待ってますよ。ふふふ」
 趣味の合う者同士が大切な記憶を出し合って、こんな風にお互いに再確認する。時間経過による記憶の劣化―あるいはボケともいう―を防ぐには、この決闘が一番なのだ。


 傍で決闘を見学していたパラドックスとアポリアは、脱力するような勝利を見届けると、さっさとお茶の続きに戻って行った。
 冷めかけた紅茶を一気飲みし、パラドックスはティーテーブルにがっくりと突っ伏す。
 Z-oneの為に倉庫からわざわざ引っ張り出してきた貴重なお茶っ葉だというのに、これでは味も風味も台無しだ。
「……いつもながら、一体何をやっているのだ、あの二人は」
 ちびちびと紅茶をすすりながら、アポリアは心底うらやましそうに言った。
「いいな。私もあんな風に語り合いたいものだ」
「止めておきたまえ。筋金入りの遊星バカに構っていると、寿命がいくつあっても足らんぞ」


(END)


2011/2/24