許してよ
暗い部屋で聞こえる呻き声。私だって、聞きたくないのに。ホントは、こんなに酷い事したくない。でも、だからってやらなかったら私は役立たず。役立たずのゴミとして捨てられる。
「がッ…」
また。また私が蹴飛ばしたレプリロイドが呻く。もうやだよ、どうして。どうして。自警団だったのに。平和都市だったのに。平和都市ドッペルタウンの自警団なのに。どうして。私だって所詮はレプリロイド。なら自分に命を吹き込んだ博士に従うのは当然。私だって、馬鹿な私だって、それぐらい知ってるよ。
「もう…立ち上がるな!!」
何度も立ち上がるしつこい相手を蹴り飛ばす。私の足は、相手の人工皮膚の裂け目や口から出たオイルで汚れた。気持ち悪い。相手が倒れた時のパーツが散乱する音も何もかもが嫌。
「まだ…それぐらいで、俺を殺せるとでも思ってんのかよ…!」
もう、嫌だよ。平和な場所。平和に過ごせる。そんな都市だったのに。どうして、どうしてですか、博士。どうして、こんなに酷い事をしろと。殺さないで、相手が逆らう気力を失うまで傷つけろなんて。
「殺したいんだろ…殺せよ…」
「…ッ!私を…私を見るな!羽虫がッ!!」
「ああ゛あぁっ!?」
私が蹴れば、お前は私を見る。なら、もう蹴らない。こっちを見ないように、首をねじれば良いでしょ?大丈夫、レプリロイドなんだから、機械なんだから。すぐに直せるよ。
博士は、この金髪セミロングの男を私に拉致するように言った。だから拉致した。この暗い部屋に閉じ込めて、死なない程度に傷つけて。私は幼いから、他人の破壊なんて嫌がるって解ってたんだ。傷ついた相手が自分を見るのが怖いって、知ってたんだ。
だからこの意志の強い男を使ったんだ。こいつが私を見れば私は怖がるから。怖さを振り払うのに必死になって、私が酷い事を躊躇わない様な奴にしようとしたんだ。
そうだよ、絶対に。だって、私は怖くて怖くて、相手の首をねじってる。このままじゃ、殺しちゃう。でも、殺しちゃいけない。手を放したら、こいつはまた私を見る。それが怖いから、私は壊れかけたレプリロイドの首を持ってる。もう、やだよ。
「殺せないのに…何で、何で…」
殺す訳でもないのにこんな酷い事をするなんて。どうせ、改造するだけなのに。なら、気絶させて改造すれば良いのに。何で私みたいな子供に…。
「嫌だ…見るな、見るな見るな見るな見るな見るな見るな!」
もうやだ、やだやだやだやだやだ!もう良いでしょ!許してよ博士!早く改造してやってよ!どうして…どうして私にばっかり酷い事させるの!?
「良し、よくやった。部屋にでも戻れ」
やっと、やっとやめられる。博士が、やっと認めてくれた。これで、これでやめられる。泣きながら、私は部屋を出た。首が変な方向に曲がった男も放置して。とにかく、すぐに忘れたかったから。オイルをいろんなところから出して、人工皮膚も裂けて。そんな酷い様子を忘れたいよ。
あの男がどんな改造をされたのか、私は知らない。知りたくもない。ただ、一つだけ言えるのは、あの男は改造したところで、心の底は変わらない。きっと、こちらを裏切って死ぬから。