シャレコウベと小鳥
それは、仕事を無くし、自分自身を無くし、さらに何人かの人生を狂わせるような大きな、とても大きな過ちだった。
しかも、僕は故意にそれを行った。
どうしても、あの人がひどい目に遭うのが耐えられなかったから。
どうしても…あの人が好きだったから。
そんな衝動的な理由で行動して、綿密な計画なんかが立つはずもない。
すぐにその行為はバレてしまい、処罰こそ免れたものの、肝心のあの人は元の世界に戻されることになってしまった。
その最後の瞬間、それでも醜くあがこうとする僕に、あの人は丁寧にこう諭した。
「あなたの、本当にするべきことはなんですか?」と。
あの人を帰してから、僕はあの人を忘れてしまうと必死に努力した。
ちょうどよく、僕を取り巻く環境も変わった。
新しい生活への適応と、日々の忙しさの中で、僕はそのまま忘れていくんだろうと思った。
…忘れられるわけがなかった。
ずっと、見ていたんだ。
そして、あのときやっと触れられた。
それが、どれだけ嬉しかったことか。
僕は、自分自身があの人をどれだけ好きだったのか、そして、どれだけあの人が大好きなのかを、嫌になるほど理解した。
だから…僕は、忘れることをあきらめることにした。
そして、再びあの人を見守ることにした。
もう二度と、同じ過ちは犯すまいと固く決心して。
先日、再びあの人がこちらに来るのだと…来てしまうのだということを聞いた。
喜ぶべきことじゃないのは、よくわかっている。
それでもすごく…嬉しかった。
お迎え担当は…僕。
どんな運命のいたずらかと思ったが、聞いてみるとあの頃の上司(今はだいぶ偉くなっている)が僕の今の上司に口を利いてくれたらしいというのがわかった。
僕は恵まれていたんだな、とそのとき改めて思った。
あの人が僕のことを覚えているはずはない。僕らの仕事とはそういうものだ。
それでも僕は、一抹の期待と、たっぷりの不安と、大きな責任を感じながらその仕事に臨んだ。
…実際にその場でどんな会話を交わしたのか…実はよく覚えていない。
あなたが「仕事はがんばっていましたか?」と聞いて、僕は「もちろんです」と応えて…
あぁ、駄目です。これ以上は僕には上手く話せません…
「ありがとうございました。そこまでで十分ですよ。」
はい…
「それにしても、また会うことになるとは思っていなかったです」
それは僕もです。……その…残念、です…
「あぁ…まぁ、そうなんですけど。でもまた会えたんだから、それでいいじゃないですか」
え? それって、どういう…
「いえ別に。それじゃあ…」
あ…はい。
「この世界での私の二度目の新生活が良いものになることを願って、『乾杯!』