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堕天使の怖れ

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「…どちら様です?」
 目の前に立った女性に問うと、女性は何も言わず笑いました。一般的な男性であれば、この笑顔を魅力的とでも感じるのでしょうか。私には、ただ不快なだけですが。
 赤みの強い紫色の髪も、燃え盛る炎を固めたような紅い瞳も、長い睫毛も柔らかそうな唇も何もかもが私を不快にさせる。この「女」という独特の感じが嫌いなのですよ。
「…私に用が無いのですか?なら、今すぐに立ち去って頂けますか?」
あまり感情を出したくはありませんが、女性が相手であれば抑える事が出来ません。私は悪くありません。過去に出会った女性の所為です。
「………」
何も言う事が無いなら立ち去って下さい。私だって、自分に用も無い方に付き合っていられるほど暇ではありません。
「…さようなら」
私が去れば済むだけの話でしたね。どうせ、この女性は私を笑いたいだけでしょう。気に入った相手を幻覚で惑わし、その姿を楽しむだけである私を。

 そう、ですよね。私を笑う為以外に私に会いに来る女性など、存在しませんよね。理解はしています。
 全ては、過去に出会った女性の所為で。私がまだ生きていて、夢の島にいた頃に出会った、あの憎たらしくて殺したい程に醜い女性の所為で。
 どういう偶然なのか、私の住む夢の島に流れ着いたレプリロイドで、息があったのが面白くて、しばらく付き合っていた女性。最初は、私も彼女を愛していました。廃品を捕食しているだけの私に、初めてできた楽しみでした。私達レプリロイドの墓場である場所だというのに、彼女はいつも笑って下さって。墓場に一人で生きた私に、初めてできた生きた友人。
 それでも、私は知っていたのです。彼女には、戻るべき場所があると。それを墓場に生きる私が縛ってはいけないと。ですから、私は彼女を有るべき場所へ戻しました。彼女は、「絶対にまた来るね、モスミーノス」と約束して下さったのに。私はそれを信じて、イレギュラーとして破壊されるまで彼女を待っていたのに。彼女は来て下さらなかった。
 いえ、来て下さいましたが、彼女はもう、私を忘れていたのです。私は、彼女を愛していたのに。彼女を忘れた事もなかった。ですが、彼女の中に存在した私は忘れられてしまうほど小さな存在でした。
 「夢の島の堕天使」と呼ばれたイレギュラーが最も恐れたのは、過去に愛した女性に忘れられた事。自分でも、どうしてあの女に忘れられただけでここまで女性を嫌うようになったかが理解できません。ただ、今言える事。

 「モスミーノス、何してる」
 
 唐突にかけられた言葉に驚き、返事が出来ませんでした。目の前にいたのは、先日私が幻覚で惑わせた相手、マグネ・ヒャクレッガーでした。
「いえ、考え事をしていただけです。相変わらず美しい髪ですね」
「もう聞き慣れた。…少し、少しだけ、嬉しいけど」
女性の様な見た目である彼に、私は不思議な感情を抱いています。女性は、愛したところで私を忘れてしまう種族だというのに。どうして見た目が女性そのものである彼に、私は安心しているのでしょう。見た目が女性でも、男性ならば私を忘れずに友でいて下さるという期待なのでしょうが、私はヒャクレッガーを友以上の存在として認識しています。

「…忘れませんよね、頭の良い貴方の事ですから」

 私は、今目の前にいる男性、ヒャクレッガーに忘れられる事を恐れます。夢の中を舞い、夢の中に朽ちた「夢の島の堕天使」は、夢の外にいる者を愛し、忘れられる事を恐れる脆い脆い、堕天使です。

作品名:堕天使の怖れ 作家名:グノー