そらからの知らせ
顔を出したばかりの太陽を見ながら今日は終日休みと決め込んで眠り、目が覚めるとじきに太陽がいなくなる頃だった。さすがに連日飲みに出かける気力もなく、残り少ない一日を満喫するべく寝間着のまま布団に転がっていると、押入れの襖に足がぶつかり隙間から小さなダンボールが覗いた。
しばらくその箱を眺めていたが、重い身体を起こし両手と両膝で這いながら押入れに近づくと、ダンボールに入っている紙束を掴んだ。視界の隅にあった愛読書に手を伸ばし引き寄せ、それらを数冊重ねて畳の上にゴロンと横になり枕代わりとする。
紙束から一つを取り出して軽く目を通し、紙を掴んだ手を離して顔に落とし視界を遮った。持ち上げた腕を重力に従って下げると紙が動き、カサリと音を立てた。
あれからいくつ季節が巡ったかわからない。数えようとすらしない。数えようと思えば数えることが出来そうな自分が嫌だった。
最初は、それこそ頻繁に手紙を寄越していた。書かれている事柄も、俺達や地球でのことが多かった。その手紙もだんだん間遠になり、忘れた頃に舞い込む手紙からは地球の話はほとんどなくなった。書かれているのは、自分が見ている新しい世界のこと。淡々と綴られた文面からも、充実している様子が伺える。
相変わらず俺の周りにはおかしな奴等がいっぱいいて、それなりに日々は騒がしく過ぎている。最初は俺を気遣ってか、不自然な程にお前の名前を出す奴はいなかった。しばらくすると、折に触れお前の名前を口にしては懐かしむ奴が出てきた。そして、最近ではごく稀に新八と下のババァから名前を聞く程度にまで落ち着いた。
お前はいつも住所不定の親父さんから来る手紙を、受け取るだけだった。そんなお前だから、手紙を貰う側の気持ちはわかるだろう。返事のしようがない手紙を貰う気持ちが。それをわかった上で、俺に手紙を送って来ているのか。不定期に、思い出したように送られてくる手紙。
何も言わずに別れたかった。俺は何も言わず、いつも通りに散歩に送り出すかのように。お互い、残るものがないようにと、俺が柄にもなく細心の注意を払っていたというのに、なのにお前は去り際、俺の心に染みを作って行った。
染みは傷と違い、痛んだり疼いたりしない。ただ、そこに存在するだけ。そして、消えることがない。ただ、それだけのこと。
子供は本当に勝手な生き物だと思う。
日々、変化しながら流れて行く時間の中で、あの日の言葉だけが変わらず頭の中で響く。
2005.8.6