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ささやかな休日

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ゆっくりとした足取りで、八戒は三蔵達のいる場所まで戻ってきた。
見ると、すっかり昼食の用意は出来上がっている。
3人がこちらに気付く前に、八戒は自分の表情を整えた。

「あ! 八戒、おかえり!」
「ただいま戻りました。凄いですね、これ」
八戒は用意された昼食を指しながら笑う。
そこには、昼食とは思えないほどの量の食事が並べられていた。
普段から悟空に合わせて量そのものは多いのだが、今日は何となく豪華である。
その奥に少し大きな白い箱を見付けて、八戒は尋ねた。
「……その箱、何ですか? 見覚えないんですけど……」
その八戒の台詞に、3人はそれぞれの顔を見遣った。

「……もういいか?」
「俺に訊くな」
悟浄と三蔵のコソコソした会話が耳に届く。
「? 『もういい』って何がですか?」
「あー……っと……ま、いいか」
そう言うと、悟浄は箱の中身を取り出した。
白い箱から出てきたものに、八戒は驚きの表情を見せる。


そこに現れたのは、キウイがふんだんに使われた生クリームケーキ。
「……あの、これは……?」
訳が分からずケーキを見つめている八戒に、悟空が明るい声をかけた。



「八戒、誕生日おめでとう!」



その一言に、八戒の目が大きく見開かれた。
誕生日。
その単語を理解し、初めて今日が9月21日───自分の誕生日であったと気付いた。
そしてようやく、今日の3人の行動の理由が分かった気がした。

「それじゃあ、今までのは……」
八戒の呟きに、悟浄が少し目線を逸らしながら答える。
「俺達は何つーか、『プレゼント』って柄じゃねえし? 今更モノ贈んのも何だしよ。
なら、誕生日の今日1日くれえゆっくりしてもらおうってな。な、悟空」
「うん! いっつも八戒にばっかり迷惑かけてるからさ。今日はのんびりしてて欲しいなって」
「そんな、迷惑だなんて……」
思ってませんよ、と言おうとした八戒の言葉を遮るように三蔵の声が重なる。
「ぐだぐだ言ってねえで、たまには休んどけ。過労で倒れられでもしたら、それこそ迷惑だからな」
三蔵らしい言い分に、八戒はクスリと笑った。
「分かりました。それじゃ、今日はお言葉に甘えさせてもらいましょうか」
「そうそう。ほら、メシだってなかなかの出来だろ? 思う存分食っとけって」
悟浄は出来た食事の幾つかを八戒の前に持ってくる。
「ええ。ではいただきます」
言ってから、目の前の皿の1つを手に取って食べてみる。

「……美味しい」
八戒の感心したような感想に、悟浄が機嫌良さそうに笑った。
「だろ? 結構イケるだろ?」
「ええ、本当に美味しいですよ。さ、じゃあ皆で食べましょうか」
「うん! いっただっきま〜す!」
悟空はいち早く反応すると、待ってましたとばかりに食べ始めた。

「あ! オイ、猿! てめえのための料理じゃねえんだから、ちっとは遠慮しろ!」
「分かってるよ!」
「どうでもいいから、静かに食え!」
一気に騒がしさの戻った中で、八戒はさっきまでの澱んだ気持ちが消えていくのを感じた。

こんなにも、この人達は自分の事を思ってくれているのに。
「1人」だなんて考えが頭を掠めた自分が、申し訳ない気がした。
騒がしいけれど、何よりも暖かい空間。
ここが、自分のいるべき場所なのだと強く思う。



「……ありがとうございます」



喧騒の中の3人には聞こえない程度の声で、八戒は小さく呟いた。

作品名:ささやかな休日 作家名:千冬