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ふたたび会う日 -どろろ外伝-

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晩春のしなびた山村で。
武将たちの圧政も終わり、戦乱も落ち着いてきたとはいえ、いまも農民の暮らし
は厳しい。人も住まいも傷癒えぬような有り様である。
そんな中、焼け跡に建てられた小屋から元気良く子供達が飛び出す。

「わーっ」
「こらーっ! みお! お米! 多宝丸! たのすけ! 家に戻んないとメシ抜
きだよ!」
後から飛び出した快活な少女が長い髪を振り乱して叫んだ。

「ちぇー、わかったよ母ちゃん」
子供達がしぶしぶ戻ろうとする。と、旅姿の侍が佇んでいるのに気付いた。
「お兄ちゃん、だれ?」

「おまえ、みおっていうのか。いい名だな」

母ちゃん、と呼ばれた少女が硬直する。
「あ、あ…兄貴!」
「久しぶりだな…どろろ」
こざっぱりとした格好ではあるが、錨の模様に、なにより前と変わらぬ涼やかな
眼差し。
それは、魔物との戦いにひとり旅立った百鬼丸であった。
圧制を敷く侍、醍醐景光を倒し、大妖怪鵺を倒した百鬼丸、どろろ、そして農民
たち。
しかし彼の体の四十八箇所を盗んだ妖怪はまだいる。百鬼丸とどろろは別々の道
を歩んだ。それから何年が経ったのだろう…。

少女は駆け寄り、若武者の広い胸を叩いた。
「ば、ばっきゃろー! なんでぃ、急に、来やがって…えっ、ぐす」
途中から罵声は細い泣き声に変わった。そして。
「わーっ、あにき、兄貴っ! 会いた、かったよう…」
百鬼丸はやさしく少女を抱き寄せ、頭を撫でた。
「すまねえ。左腕が最後まで戻らなくてな。やっと全部身体を取り戻した。それで
この村で孤児を育てている変わり者がいると聞いた、って…」
改めて女らしくなったどろろに気付き、少ししどろもどろとなる。髪も背も伸び、
少年と間違えることはもうない。その姿は一度だけ再会した母にも、義眼でしか見
ることの出来なった初恋の人、みおにも似ている気がした。

「な、どろろ。俺、侍をやめる。寿海親父のもとで、勉強して、医者になるんだ。
人を生かす仕事をするんだ。だから、その、い…一緒に…」
どろろは百鬼丸の左手をそっと握りしめ、微笑んだ。
「へ、へへへ。ホントだ…兄貴の手、ほんものだぁ。あったけぇ…」

子供達がはやし立てる。二人は動かない。もう言葉はいらない。


 桜がはらはらと、舞い落ちた。



                              ・・・終わり。