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過ちは正されるべきである

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その日は仕事が休みで、静雄は適当に声をかけられた女と溜まっていたものを解消した。向こうは静雄のことは知っているのかもしれないが、静雄は相手の名前も知らないし聞く気もない。女も自分の事は何一つ言わなかった。互いに後腐れ無く済ませホテルを出て、角で別れようとした所で知り合いに出会した。
 竜ヶ峰帝人というセルティの紹介で知り合った高校生は、大人しい印象通りの穏やかさと、反面辛辣にもとれる的確な物言いをする。だがそれは静雄に不快を与えることが無く、普通の少年との交流を静雄は気に入っていた。だからか帝人とは会えば立ち話をしたり、気が向けば食事をすることもあった。
 視線が合った帝人は驚いたように目を丸くした後少し顔を赤らめた。この辺りに何があるのか、静雄と女が何をしていたのか察したらしい。見た目通り純朴な少年らしい反応に静雄もどう扱ったものか戸惑ってしまった。
 二人揃って固まっている状況に唯一変わらなかったのが静雄の横の女で、するりと組んでいた腕を離して軽く叩くとその場を去っていった。「またね」も「じゃあね」もないそれは行きずりの関係らしい別れかただ。
 女の後ろ姿と静雄を交互に見て、目でいいのかと言っているのがわかった。いいも何も関係など無いも同然の女に言うことなど何もない。だがそれを帝人に言うのは憚られて黙っていた。それをどう捉えたのか、はたまた沈黙が重かったのか、女の方を見たまま帝人が言ったことは静雄に衝撃を与えた。
「綺麗な彼女さんですね」
 何を言われたのか最初はわからなかった。そして理解して感じたのは明確な怒りと苛立ちだ。言ったのが帝人でなければ怒鳴るか殴るかしていたかもしれない。しかし見るからに貧弱な少年にそれを向けることは出来なかった。だからといってその衝動がなくなるわけではなく、出た否定の言葉は自然吐き捨てるような明らかに不機嫌なものになっていた。
「彼女なんかじゃねえよ」
「え…」
 いつにない低く荒い声に、困惑したらしい帝人はそれ以上何と言ったらいいのかわからない様子だった。気まずい空気のなか、帝人の携帯の着メロが鳴る。それにホッとしたように帝人は挨拶をして帰って行った。
「チッ」
 気に入らない。とにかく気に入らなかった。あんな女を静雄の恋人だと言った帝人が。帝人に綺麗だと褒められた女が。それが気に入らないと感じるのに理由のわからない自分の心が。何もかもが腹立たしい。
 苛立ちのまま壁を殴ればそこには簡単に穴が開く。苛立ちは微塵も晴れないまま静雄はそこから離れた。



「んっ。ふ、ぅ」
 仕事も終わって一服しようと入った路地裏で聞こえたそれに静雄は舌打ちしそうになった。こんな所で盛りやがって。だからといって邪魔をするのも面倒で踵を返す。
「みかど」
 聞こえた名前に動きが止まった。まさか。だが、みかど、など、ありふれた名前ではない。
 きっと違う。たまたま同じ名前か、聞き間違いだ。そう言い聞かせて足を進める。なぜ自分に言い聞かせるのかもわからないまま。
 路地裏の奥にいたのは来良学園の制服を着た二人の少年。一人は脱色した明るい髪で、それにキスをされているのは黒い短髪の。

 りゅうがみね

 言葉は音にはならなかった。動けない静雄の視線に気づかないまま二人は明らかに深いキスをしている。
 唐突に前が窮屈なのに気づいた。勃起していることに困惑する一方で、目の前のそれから、正確には帝人から目が離せない。
 恍惚とした甘い声、蕩けた顔、潤んだ瞳に濡れた唇から時折覗く赤い舌。そんな帝人、静雄は知らない。
「ふっ。……もう!こんな所で何するんだよ!」
「別にいいじゃん。可愛い恋人とキスしたいってのは男として当然だろ」
「か!?…眼科に行ってきたら正臣」
「なんだよ。あんなに可愛く縋ってたのに。相変わらずツンデレだなー。ま、そこも可愛いけどさ」
「誰がツンデレだって?あんまりバカなこと言ってるとウチに上げないからね」
「何言ってんだ!夜はこれからなんだぜ!そんなことしたら泣くからな!」
「そう。泣けば?」
「よよよ」
「…はあ。…ほら、下らないことしてないで行くよ」
「おう!」
 とっさに身を翻してそこから離れ死角にはいる。少年たちは静雄に気づかないまま通り過ぎ、街の中に消えていった。
 残された静雄はその場に立ち尽くしたまま、先程まで見ていたものが脳内で繰り返し再生されていた。
 見知った少年の見たことのない媚態。これから彼らは帝人の家に行くのだろうか。そこで、続きを行うのか。愛し合う恋人同士として。先程よりも淫らに乱れた姿を晒して。
 ビルの外壁が抉り削られ手の中で握り締められて砂になる。だがそれにも静雄は気づかなかった。
 ダメだ。アレが人目に触れるなど。あの媚態を見て、あまつさえ触れるなど、あのガキに許されることではない。だってアレは……帝人は、自分のモノだ。
 欲しいと思ったのだ。今まで人を欲しいと思ったことなどないのに。きっと、ずっと、帝人が欲しかった。でもあまりに長いこと人に何かを求めるのをしなくなっていたから、気づけなかった。
 手に入るなら、どんな代償があろうと構わない。帝人がいればそれでいい、他には何もいらない。だから、帝人は静雄のモノであるべきだ。否、静雄のモノだ。そして静雄のモノである帝人が静雄以外に身を委ねるなどあってはならない。静雄のモノである帝人に他人が触れることはおろか、見ることでさえ許されることではない。
 間違いは、正されなければならない。
「そうだよな」
 出された結論に頷き、静雄はそこから移動を始めた。タバコを吸いながら歩く足どりは軽い。
 帝人の家は知っていた。ここからそう遠くはないし、彼らが立ち去ってからもさほど時間は経っていない。これなら更なる過ちが起きる前に、止めることが出来るだろう。
「大丈夫だ、竜ヶ峰。また間違える前に、ちゃんと助けてやるからな」
 長身の影が雑踏に紛れる。街は何もかもを飲み込んで変わらず在り続けていた。