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余剰力

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あいして、と言われたことがある。言ったのは、もう誰ともわからない。確実なのは女だったという、その一点だけだ。


あいしてもなにも。
あいされるってどういうことなのかすら、不明なのに。


身体は求められたことがある。求めたことがある。足の間を許す覚悟と埋め込む決意は、きっと等価だった。

でも心を分けたことなど、与えられたことなど、ただの一度もありはしないというのに。







君もいつかいうのだろうか。もう戦わないで、という女とは違い、また怪我をしてますね、と事実のみを指摘する君も。
いつか、あいしてくださいというのだろうか。



「言いたいことはそれだけ?」


「他に何をいえと?」


「あいしてほしいとは言わないの」


すると、君は心底あきれ果てた目をして息を吐く。


「だってあなた、あいされることすら知らないでしょ」


息をまた吐く。


「だから、まずはあいされる勉強からはじめましょう。…オレでいいですよね」


頷けば、彼は笑った。あいしてください、まずはご自身を。そして愛させてください、あなたをと、笑った。


「それから、いつか気付いてください。あなたの周りにいる、あなたを大事に思う人に」


「君を、あいすのは?」


「んなの、後回しですよ。まあ、そこまであなたに余力ができるとは思えませんが」



そうですね、気が向いたらついでに、で充分です。そう笑う彼は男の子だから。だからあいしてとはいわないのだろうか。わからない。わからないことが、不快ではなかった。




あんたは黙って愛されなさい。
作品名:余剰力 作家名:夕凪