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愛とはつまりどうしようもないもの

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 彼の愛は歪んでいて、手に負えなくて誰にだって「それは愛じゃない」と言われてしまうような愛だった。
 傍迷惑であり得ない、非常識で幅の広い、すべてを覆う愛。
 彼は求めない。共感も追随も必要ない。
 自分が愛するように愛してほしいと嘯きながら愛されるはずがない愛し方をしているのだと知っている。
 知っていても改める気もなければ世の中の普通とやらに迎合する気もさらさらない。
 彼はそんな自分のことを気に入っていた。
 矮小でも卑怯でも小狡くとも、彼は自分を否定しない。否定される生き方だと知っているからなおのこと、彼は自分を肯定した。
 彼は自分を知っている。彼は人を知っている。だから彼は矛盾する。
 彼は自分を偽る。彼はすべてに嘘をつく。騙し欺き翻弄する。他人に勝った気になって優位に立って人を見下す。
 自己顕示欲は人一倍、それ以上に彼は愛のために生きた。
 誰に否定されようと、誰に恨まれたところで彼は人を愛することをやめない。
 愛されないことが愛することをやめる理由にはならないからだ。
 彼の感覚、常識は破天荒な性格に反して至極まっとうである。
 ただ踏み越えてはならないものと理解した上で彼は躊躇せずに飛び越える。
 その先に自分が求めているものがあるならば躊躇う理由などないのだ。
 彼はそういう意味では堪えのきかない子供のようでもあった。
 破滅の階段を駆け上がることも奈落の穴に落ちることもその先に目指すものがあるなら構わない。
 単調な過程すら劇的な結末のためならば我慢できる。
 退屈すらも愛せたのなら彼は聖人になっただろうが、生憎と彼はただの一般人。
 好き嫌いも矛盾も持ち合わせていた。
 そして、そんな自分のことが彼は気に入って納得していた。
 彼が彼であることを自分自身で肯定する。誰からも否定される在り方を彼は是とした。


 彼の前に現れた一人の少年。
 現れたというのは正しくない。彼が見つけだしたというのが彼の主観では正しい。
 どうしようもない彼の愛に巻き込まれざるえない喜劇の出演者。
 どこにでもいる、通り過ぎるだけの存在。
 彼の琴線に引っかかる。
 理由は簡単。
 彼は暇や退屈を嫌い、常に求め続けた。
 果てのない愛が、どうしようもない愛が、彼を追い立てる愛が、たった一人の人間に集束する。
 はじめから予感はあった。
 少年には彼が求めるすべてがあった。
 人が持ち合わせる矛盾。
 綺麗は汚いで汚いは綺麗。善意も悪意も背徳も幻想も夢も希望も絶望も後悔も、実際はたったの一つ。人の心という目に見えないもの。
 感情はただ波紋のようなもの。外からの衝撃でも水底からの影響でも水面に広がる波紋は変わらない。
 彼の愛はその水面の変化をより劇的で分かりやすくさせること。
 人を負の方向へ働きかけてそれでも正へと行くのならば魅力的。思惑通りに負へと転がり落ちるなら予想通りで退屈。
 彼が見つけた少年は、生でも負でもない。
 悪であって善でもある。
 彼のように悪人よりの人間ではなく、かといって少年は善人ではない。
 似ていて、違っていて、彼は少年を理解できると思った。
 彼が少年を愛するのに理由はいらなかったが好意を持ったのは少年の有りようが愛おしかったからに他ならない。
 少年の変化を彼は喜んで受け入れる。
 自分が水をあげている花が育つ心地だ。
 芽が出れば嬉しい、蕾が花開く日が待ち遠しい。
 彼は自分が少年にとって必要な人間であると確信するのが楽しかった。
 今まで彼が期待していなかった誰かから返ってくる愛情。
 彼は少年を騙している自覚はない。
 息を吸うように人を弄ぶ彼は少年には彼なりのやり方で誠実だった。
 言わないことは悪事ではない。
 少年の寛容さが決して優しさではないと彼は知っている。
 自分が不利になることを望む彼ではない。
 向けられる普通の感情の心地よさに酔うこともなく彼は彼であることをやめない。
 それでも少年に好意的であることには変わらない。
 彼は少年が好きだ。少年からの好意も嬉しい。
 人から肯定されずに生きてきた彼はその双方向のプラスの感情を固定させるすべを知らない。
 彼は彼でありすぎた。
 彼が彼をやめることなど思いつきもしなかった。その先に待つ不幸を薄々は悟りながらも彼は日々を生きていた。
 少年はあまりにも彼を知らなかったが、同時に理解もしていた。
 少年は自分に危害を加えない相手に対して取り立てて感情が動かない。少年は誰に対するものでも暴力は嫌いだったが、非現実的なトラブルには憧れた。
 夢見がちともいえるほど都会に憧れを抱く少年。臆病で少し人見知りする普通の少年。
 普通と自分を定義する少年だからこそ、少年は彼に惹かれ同時に距離もあった。
 年齢でも住んでいる場所でも何でも二人には距離があった。
 彼は時々それを感じさせないように少年の中にするりと入り込んでくる。
 嫌みのない強引さが少年は実のところ好きである。友人に慣らされているせいもある。
 自分にないものを持っている人間、自分がありたい場所へいる人間、少年にとっての彼はそれだ。
 恋慕にならざる憧れというより将来的なある種の選択肢として少年は冷静に彼を見る。打算にあふれるそれを彼は肯定した。
 彼が少年を好きなのも、少年が彼を好きなのも、互いの打算に対して肯定的な面が強い。彼と少年は単純に馬が合うのだ。
 彼は常に少年を個人的に愛しながらも彼であるが故に人間すべてへの博愛をやめない。
 少年は少年であるが故に彼の本音も本心も気にもしない。
 彼はそれを淋しく思うような殊勝な人間ではなく、好都合だと喜べるズルい大人だった。
 それでも、いつかは巡る世界の必然で少年は広い視点を手に入れる。
 小鳥が巣立っていくように、花が咲き誇るように。
 今はまだ彼のどうしようもない愛が少年を包み込んでいることを知らずとも、いつかには気づいてしまう。
 少年がそれを意識したときが二人の世界が変わるとき。
 彼が目をそらしていた現実に向き合うとき。

 彼は自分の思わぬ心の動きに驚くかもしれない。
 少年は困惑が心を覆い思考がおぼつかないかもしれない。
 それでも、二人の顔には意識無意識に関わらず笑みが浮かんでいるのだろう。

 少年は否定して彼は肯定する。


 それが彼の愛だから。