絡み合う糸
(僕だけが好きだったんだ!臨也さんは僕の事なんて...っ!!)
そればかりが頭の中をぐるぐる回って、がむしゃらに走り回っていたら、ふいに何かやわらかいものに思いっきり顔面をぶつけて思わず尻餅をついてしまった。
「うわぁ!!.....いたたた....」
「大丈夫ですか?怪我等の報告を簡潔に求めます」
「前みねぇと怪我するべ?ヴァローナだったからよかったけど、静雄にだったら下手すりゃ骨折だな」
「あ...トムさんにヴァローナさん...すみません、大丈夫です」
あえて僕がぶつかった柔らかいものは考えずに、差し向けてくれたトムさんの手を掴み立ち上がった。
あまり頓着しないヴァローナさんと空気をしっかり読めるトムさんのおかげで、僕は赤面せずにすんでよかったと思う。まぁ、心の中ではヴァローナさんに土下座で謝りまくりだったんだけど...
「ありがとうございます。ところで今日は静雄さん一緒じゃないんですね」
この二人が一緒っていう時点で仕事だと確信しつつも、静雄さんだけいないのが意外だった。
「否です。先輩はそこのコンビニです。あえて自分の体内から害を与える物を、お金を払ってまで購入する考えは私には理解不能です」
「あぁ!煙草買に行ってるんですね!...はじめ少し考えちゃいました」
「....っ!!なんでしょう?!帝人は一般的に云えば平凡というカテゴリーに属するハズです。ですが、その笑顔は私は可愛いと認識します。私の心拍数が一気に上昇しました。これは...」
「うわぁ!?」
いきなりヴァローナさんが大声で叫んだかと思うと、いきなりその柔らかな体に思いっきり抱きしめられていた。
臨也さんにしか抱きしめられた事はなく、ましてや女性になんてもってのほかで、僕はみっともなくうろたえてしまった。
「やはり!確信しました。私は帝人を抱きしめると心拍数が向上し、嬉しいという感情が満ち溢れます。では、その甘そうな唇に口づけたらさらに気分が向上するのでしょうか?とても甘そうに感じます」
「...っ!!え?!ヴァ、ヴァローナさん、だ、ダメです!!す、ストップ!!ストップッ!!!!」
「ヴァローナ!!さすがにそれはダメだべ!!」
確認します。というと、そのまま顔を僕の方に近づけてくる。トムさんと一緒に慌てて止めるけれども、その顔はどんどん近づいてきて、思わず目をつぶった瞬間...
バシュッ!
風をきる音がきこえ、急いで目を開けるとヴァローナさんの服をかすったのか、後ろの方に見覚えのあるナイフが転がっていた。慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのは、肩で息をしている臨也さんの姿が...。
「い、ざや...さん?」
「折原臨也。私の邪魔をするなら容赦しません。至福の時間を取り戻すため、帝人と離れるのは不本意ですが、あなたを排除します」
「それはこっちのセリフだよ!!俺の帝人君に何してるわけ?静ちゃん並に怒りを感じた相手なんて君が初めてかもね」
僕を背中にかばいつつ、行き成り戦闘態勢になったヴァローナさんと、いつもより赤い瞳をギラギラさせている臨也さん。どうすればいいんだろうと、こちらを伺っていたトムさんに視線を向けようとした瞬間、僕の視界に引っかかったのは、臨也さんの投げたナイフで切れたと思われる、血が流れているヴァローナさんの腕だった。
「っ!ヴァローナさん、腕から血が出てます!手当てしないと!!」
ヴァローナさんの腕を掴むと、傷口を丁寧にハンカチでおさえる。傷口からばい菌が入ったりしたら大変だから、ちゃんと消毒した方がいいと思う。
「帝人...感激です!私の事を心配してくれる帝人に愛しさを感じます!!」
「え?!そ、そんな場合じゃないですよね?女性なんですから傷が残らないようにはやく手当てしないと!」
また僕に感極まったように抱き着こうとするヴァローナさんを、両手で思いっきり押しのける。...女性相手なのに、力負けしそうな僕って...ちょっと悲しくなったのは内緒だ。
そういうやり取りを何回か繰り返しているとき、存在をうっかり忘れてた臨也さんがポツリと呟いた。
「...帝人君さぁ、ずいぶん楽しそうだね?俺が心配して追いかけてみれば、当の本人は女といちゃいちゃして...。迷惑そうな雰囲気を出してたのはただのポーズってわけ?はっ!いいご身分だね!!そのうえ、恋人である俺じゃなくて、彼女の心配までしちゃってるし」
「っ!!なんなんですか?!!臨也さんが僕に対して謝るなら許してやろうと思ってましたけど、心配なんてよくそんな言葉が口からでてきますね!!僕にあんな事言っておいて!!それに平気で女性に怪我させるなんて最低ですね!最低のあなたの心配なんてしませんっ!!」
どんどん声を張り上げて僕を罵倒してくる臨也さんに、僕も思わずキレて云いたくないのに感情的に怒鳴り返してしまった。そうなると、前回同様、言い合いになるのは目に見えていて...
「女性にだけ優しさを持つってフェミニストのつもり?今時はやらないよ!それにそんなに彼女の方がいいならそっちにしたら?俺も女性の方がいいしね!!」
ふんっ!と言い切った臨也さんの一言に今までの怒りが一気に凍り付いた。
(女性の方がいい...よね。臨也さんモテるし...。じゃあ、男の僕と付き合ってたのって遊び...?)
「...で...す...」
「何?聞こえないよ?謝るんなら今だからね!俺は優しくてかっこいい最高の情報屋さんだから、今謝るなら許してあげてもいいよ!!」
臨也さんが何か言ってたけれど、僕の耳は音として拾うことはなかった。
「臨也さん酷いですっ!!!僕との事は遊びだったんですねっ!!!そんなに...そんなに女性がいいなら...いいなら....うぅ....っ!!」
「え?!ちょ、ちょっと、帝人君!?帝人君ってばっ!!」
「?!帝人、停止を求めます!!」
しゃべっているうちにどんどん感情が高ぶってきて、僕はまた泣きながらその場を走って逃げ去った。
なんか最近涙腺が一気に弱くなっている気がする...。
---あぁ...糸はさらに絡みつく-----