"test"
数年前にヒットした映画を二人で観ていた。本当はチャンネルを変えたかったけれど、ライルはじっと画面を見つめている、気がする。ニールは床に座り、ライルは後ろのソファの上で片膝を抱えていた。まるで膝の陰に隠れるように。眼光は硬い色をしている。振り向いて見なくても大体の想像はつく。
男が女に駆け寄って、軽口を叩く。遠景は公園。女がじっと見つめ、足を一歩踏み出す。
「キスって」
ニールは先週読んだ雑誌のことを喋りだした。
見据えたままの画面の中では、俳優と女優が濃厚な大人のキスを交わす。深く、熱く。顔と顔がカメラから外れても、影は重なり合ったまま。
話の内容を継ぐ前に、言うことを途中で変えた。
「ライルはしたことある?」
「ある」
「へー」
聞かなければよかったかなと一瞬だけ思った。でもこれは、そんなに関係ないかもしれない。ニールは足を組み替え、左腕に重心を傾けた。
「どんな感じ」
「え」
心底面倒くさそうな低い声色がおかしくて、滑らかに振り返る。ライルは立ちかけていた。体を前に傾けて、立つと言うより、近寄るのだった。動作を捉え、顔を見返すのだけど、何の表情だか分からない。少し、意地悪な感じを覚えた。
こんなに近いのは、初めてかもしれない。さほど、嫌ではなかった。想像していたより、実は軽くて素っ気なくて、味もなにもわからない。