さよならウェンディ、よい夢を。
やぁ!おめでとう!おめでとう!おめでとう!実にめでたい!まさかこんな日を迎えるとは思ってもいなかったよ!本当に、本当に、おめでとう!
……なんだ、全然嬉しくないみたいだけど。え?そんな、なんのつもりってね、俺はただ今こうやって、手を叩いて、まさにスタンディングオベーションで君をむかいいれただけじゃない。意味は勿論あるよ、……ああ、その顔はわかってないみたいだね。しょうがない、もう一度最初からやってあげよう。
おめでとう!おめでとう!俺からの卒業、本当におめでとう!
やだなぁ、怒らないでよ。ふざけてなんかない。本当さ。今日は君の俺からの卒業式だよ。今後俺は一切君に関わらないし、君も一切俺に関わらないでいい。勿論嘘でも冗談でもないしそんなふりをしてこっそり罠をしかけるとかそんなことはしない。嘘じゃないよ。俺が嘘をつかないのは知っているだろう?……信じてないみたいだねぇ?わかったよ。こうしよう。今後俺は一切君について調べないし君の噂を聞いたとしても知らないふりをするし情報も売らないし君の情報が万が一目に入ったとしてもすぐに忘れるし君を見かけたとしても無視するし君で遊ぼうとも思わないし君に何か頼もうともしないし君に電話メールその他連絡は一切取らないし人を雇って間接的に君に関わろうともしないしできる限り君の関係ある場所には近づかないようにする。俺が仕事だったりとか君が例えば引っ越したときはしらないからね?俺引っ越したっていう情報もしらないんだからさ。それと君の周りの人たちと関わることは許してほしいなあ。……はぁ。そうだろうねぇ、嫌だろうねぇ、でもね、彼らとってもおもしろいんだ。君は絶対に巻き込まないようにするからそれぐらいは許してほしいなぁ。……で?どう?これで信じてくれる?
……信じてくれない、か。今思いつく限りできるだけ穴は埋めたつもりなんだけど。君も知っての通り、俺は約束は守っても「穴」から抜け道を探すタイプだからね。……ま、しょうがない。君が信じてくれようとくれまいと、俺はさっきいったとおり、今後一切君に関わらない。それだけさ。あぁ、ただ君を個人としては認識しなくても「人間」又は「一般大衆」としては愛したいからさ、それは絶対。ここは譲れないね。
さて。じゃあいうこともいったし、君と俺、折原臨也との対談はこれで終わりだ。最後だしね、何かききたい事があったらきいてもいいよ。
……理由、ね。別に悲しくもないけれど楽しくもないよ?それでも聴きたい?
……あっそ。いや、さっきいったとおり、俺は君を「人間」とも、それと「君」という個人ともどちらとでも認識していたんだけれど、もう、いいかな、ってね。何が、ってもちろん、きみを個人で認識する事さ。……なんでって、……何だろうね?飽きたとかじゃないんだけれど、君から興味がなくなったんだ。今の俺にとって君は特にトランプのカードでもなく、オセロでもなく、チェスの駒でも、将棋の駒でも、碁石とももちろん違う、全くの場外、ボードの外にいるんだよ。
……微妙な顔だなあ。もっと嬉しい顔をしたらどう?確かに人から興味がないといわれたらあまりいい気はしないだろうけれどね、いってるのはこの俺、折原臨也だよ?そうだろう?
君はもう俺のボード上にいるような人間じゃないのさ。だからいっただろ、これは君の折原臨也からの卒業式なんだよ。君には随分楽しませてもらったからね、感謝をこめて敬意を示して、幕を自ら引くことにしたのさ。俺が君に何もせずにしても君は俺を徐々に忘れていっただろうけれど、最初の数カ月、もしかしたら数年間はいつ俺が姿を現すかって思ってるかもしれない。だから自分からいいにきてあげたんだよ。俺ってほんっと、優しいよね。
つまりそれぐらい君が成長できたってことさ。俺が関わろうとする、もしくは俺に関わってしまう人間たちは、皆どこか隙があったからね。君にはもう隙がなくなってしまった。俺はこそこそと退散する、ってことだよ。
……そんなにさっきと言い方が違うかな?俺もよく思考がころころ変わるっていわれてね。けれど例え今まで100の嘘をいっていたとしても今日ここで喋ったことは全て本当のことだよ。どれも俺の本心。
……だから何でそんな顔をするかなぁ。もう質問はないよね?じゃ、俺はいくよ。人間を愛でるのに忙しくてね。勿論今の君も人間なんだけれど、今は君個人の認識が強すぎるから、ねぇ。
後ろを振り返って、三歩歩いたら俺は君のことをすっかり忘れている。どうだい?今の君ならたとえ忘れたとしてもそこからまた興味を持って関わろうとするってことはないだろうからさ。っやめてよ、こっちにこないで。来るな。……いい、そこにいるんだよ、動いたらダメだからね。……いや、撤回しよう。回れ右をして俺と逆方向にいくならいいよ。俺はこっちにいくから、君はそっちね。
俺はさっきいった通り三歩あるいたらもう人間の事で頭が一杯になってしまうけれど、君はそんなことできないよねぇ。……そうだ。ねぇ、君、家に帰ったら、まぁシャワーを浴びてからでもいい。眠るんだよ、深く、深く、眠るんだ。そうすれば、そうしたら起きた時に俺のことは忘れている。君も素敵な一般人ライフだ。ああ、そうしよう。それがいい。
じゃあ、本当に、これにてお別れ、幕引きだ。俺からの答辞は終わりだよ。さようなら!君の大切な人とお幸せに!さようなら!
[ さよならウェンディ、よい夢を ]
作品名:さよならウェンディ、よい夢を。 作家名:草葉恭狸