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新緑

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鮮やかな新緑が光と露に濡れて、葉はその瑞々しさを誇るよう風に揺られて水滴をこぼした。
生命力に満ちたそれぞれの緑色は窓越しでも十分に美しさを主張して楽しませるから、ここから見る季節は特に好きだった。
わびさびや情緒など到底理解出来る自分ではないが、わかりやすい自然な光の映りは素直にそう思える。
開け放った窓から清々しい空気が流れ込んできて心地よい。
一掃された部屋では呼吸まで違うような気がして、今ばかりは愛煙も手に付けたくなかった。
常々禁煙を騒ぐ隊員が聞けばさぞ喜ぶことだろう。
まさかそんな事をそんな風にして思うなんてと、喜ぶより驚かれるかもしれない。
あの生意気な青年には笑われるかもしれない。
しかし自分にだって芽吹いた草木を微笑ましく思うところくらい在るのだ。
美しいものを美しいと、大事にしたいと思う心はきちんとここに存在している。
誰一人分かりはしないだろうけど。


壁一枚隔てただけでこんなにも世界は違う。
あちら側はあんなにも生命に溢れていてまるで全てに祝福されているようなのに、こちら側はそこから切り離されたように取り残されただけだ。
破棄するばかりで何も生み出せない。
繋がって生産する想いはもう過去と色褪せてしまった。
昔に決別してしまった。
傍で笑ういとおしさも、大切だったあの頃も。
そう思わせてくれた者は忘れ形見を置いて還っていってしまった。
感傷的とは言いたくない。
ただ時々無性にむなしくなるだけだ。
ただ素直に傍にいたら、今自分はこんな想いになっただろうか。
一緒にいたら何かが変わったのだろうか。
そればかりが、やりきれなくて。
生き生きした生命の所在はふいに亡くした儚さを湧きおこす。 


光が降り注ぐ外の景色が眩しい。
眩しいから、滲んだ。
明日も明後日も刀を手に取るのは変わらないし、また煙で空を汚すのも変わらない。
染み入る季節を横目に、あの日を通り過ぎるのだ。
仲間と、遺産のような形見と。
今はそれを守る為に生きている。
窓を閉めると同時に火を点ける。
もしも彼女がいたら、ここで自分は何を想うのだろうか。
そこに寄り添うのは窓から見た爽やかな色彩だけだった。

作品名:新緑 作家名:じる