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門出待ち

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「――――有人、」
「?はい」
「本当にいいのか……?」
 自分でも驚くほど、口から出て来た言葉は情けなかった。
 しかも前振りがない。こんなことだから秘書にいつも言葉が足りないと言われてしまうのだ。
 会社で、自分相手であればそれでもいいけれど、有人に対しては言葉を惜しまずきちんと順序立てて思っていることを伝えるようにと言われたばかりだったというのに……。
 頭では分かっているつもりでいても、実際、実行に移せなければ意味が無い。
 しかし、改めて今更ながら説明をしようとしたところで、先に有人が口を開いた。
「自分で考えた上で、決めたことですから」
「……」
「ありがとうございます」
 そう言って、しっかりとした笑みを見せる。
 ……元々、有人は聡い子どもだった。
 1を伝えれば10を理解するという言葉も、大げさな表現ではないほどに。
 それに助けられている自分は、大人としても親としてもひどく情けないような気がするけれど……。
「……」
「……」
「……」
「……?」
「……そう焦って、物分りが良くあろうとしなくてもいいのだよ?」
「……そう、ですか……」
「ああ」
「……でも、そこまで自分は物分りが良い方じゃありません」
「そうかな?」
「はい」
「……そうか」
 本人がそう言うのであれば、そうなのだろう。
 お互いに少し口元を緩めて、止めていた手を再び動かし、食事を再開する。
 シェフには悪いが、自分はと言えば。料理を咀嚼しつつ、頭では全く違うことを考えていた。
 
『4月からは、帝国学園に通います』
 
 数日前に、はっきりとそう言った有人の気持ちも考えも全て有人のものであり、自分がその全てを理解することは難しい。
 親として自分ができることと言えば、そんなこどもの決意を尊重することくらいなもので。
(尊重……か)
 以前、自分はそのための方法を間違えた。ただ何もせずに見ていることが『尊重』するということだと、そう思い込んでいた過去の自分。
 そうは言うものの、今だって何が正しい方法なのかということは分からず、ひたすら手探りをしつつの模索中といったところだ。
「――――何が正しいかは、蓋を開けてみてのお楽しみということか……」
「義父さん……?」
「いや、こちらの話だ」
「……?」
「……進路については、お前の思う様にするといい。私は、それを応援しよう」
 ――――こんな言葉で良かっただろうか?
 言った後、少し不安になったが、それはすぐに払拭された。
 力強く頷いた有人は、自分から見てもとても頼もしく思える。
 ――――こどもは、こんなにも真っ直ぐに成長を続けているのだ。
(……彼が、今のこの子を見ることがあったなら、どう思っただろうか……?)
 ふ、と思い浮かんだその考えは、決して口にしない。
 今はまだ、これは、自分の中だけの話にしておこう。
 
 《終わり》
後悔しない生き方について
作品名:門出待ち 作家名:川谷圭