誘惑
春の陽射しで
タクトはうとうととまどろんでいた。
ベッドではないけれど
それに劣らない心地よさ。
ふっかふかのクッションを二つ、
贅沢に抱え込んで
意識はもう夢の中に
半分以上落ちていたけれど。
ふと
人の気配。
視界が人影で暗くなったような・・・?
チュ
と
唇に何かが触れて
そのあと
呼吸が憚れ、
明らかに、唇を塞がれていることに気がついて
唐突に覚醒する。
「・・・起きた?」
目の前の男に声をかけられ、
2〜3度目を瞬くいて
ぎょっとする。
「〜〜〜〜っ!スガ・・・っ!」
ソファのひじ掛けにざざっと後ずさり、
2つあったうちのクッションを
スガタに投げつける、タクト。
-----っ!今、何、キスされた?!
真っ赤になって
もうひとつのクッションに顔をうずめ、
ちらりと、
目だけでスガタをとらえると。
ぐ、と
その防御壁にしていた
クッションをつかまれる。
ここから先は力比べだ。
タクトはどういう料簡でこんなことをするのか
まったく理解できない!
という混乱した頭のまま、
スガタから逃げ出そうとしたけれど。
「なんで逃げるの?」
はっ?!なんでって!普通逃げない?!こういう時!
タクトはますます混乱する。
「スガタこそ何やってんの!」
意地でも、このふかふかな
ーーーーー頼りなげだけれど
クッションを放してなるものかと
睨みつけるけれど。
「・・・・誘ってる?」
と問い返されて
タクトは
一気に脱力してしまった。
「ちょ、あのさ!スガタは!ワコが好きなんでしょ!」
「・・・まぁそうかな」
「なんでこんなことするかな!真昼間から!」
「・・・真昼間じゃなきゃいいの?」
そうじゃないし!
タクトは話の通じないスガタにたじろいでしまう。
「タクトにキスするのは、初めてじゃないんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「寝てる時は毎晩ーーーーーーーーーーーー」
「はぁ?!」
冗談でしょ!
と。
叫んだその言葉は
スガタのキスに
飲み込まれていった。
「ーーーーっ!!んっ!」
やだやだやだ!
何で何で!!
ぐ、と
いつの間にか、ふかふかクッションを抱え込んでいた手は
そのソファに縫いとめられて。
「ちゃんと、タクトとキス、したいんだけどな」
真顔で言う、スガタ。
「・・・・・僕男だけど?」
「知ってるよ」
「ワコが好きって言ったじゃん、今!」
「そうだね」
「ーーーーっ!じゃあ、何でこんなことするの!」
「なんでって・・・」
好きじゃない相手にキスしたりするのか?タクトは
と。
疑問に思いながらも
そんなわけない、と自ら答えを導き出して
それを口に出すことすらしない。
ワコは好きだ。
けれど
それ以上にタクトが好きなだけだ。
長年自分と一緒にいたワコがタクトに惹かれたように
自分もタクトに惹かれた。
ただそれだけ。
・・・・・・・・何が不満なんだ?
スガタは
また一つ疑問が生まれたけれど
自分が組み敷いているタクトを見て
すぐにその思考は頭から消えた。
「タクト」
「・・・・・・何」
すっかり腰が引けて
びくついているタクトは
スガタを見上げながら、
笑い飛ばす余裕すらない。
「・・・そろそろキスの次に進んでもいいかな」
「・・・・・・・・つぎ・・・・・・・・・???」
キスの、次って何?
ハグ?
ハグ???
スガタは
まっすぐにタクトを見据えて
ゆっくりと
近づいてくる。
キス、される・・・
解っている
けれど
さらりと頬にかかったスガタの髪と
意外に長い睫毛
綺麗な瞳の色
間近で見て
それに引き込まれていた。
キスと一緒に、
スガタの手がTシャツの中に潜り込んでくる。
わき腹から、
ヘソのあたりを撫で上げられて。
「っあ!」
と。
意図してないのに
声が漏れた。
ピタリ、スガタの動きが止まる。
タクトは一気に顔に熱が上がって
羞恥でぐるりと
背もたれのほうに顔をそむけた。
今っ変な声!出ちゃったよ!!
タクトは受け入れてしまっていた自分と
スガタに反応した自分に
改めて驚愕することしかできない。
すい、と
背中から、ローライズからのぞく
腰骨をスガタの指が這う。
「ちょ、スガタっ!」
「拒否しないってことは
いいってことだよね?」
耳元で、
ささやかれる
悪魔のような一言。
そのまま耳たぶを口に含まれて
水にぬれる音が、
プールに浮いているような浮遊感を思い出させる。
タクトはもう、
何も言えなくなっていた。
も、何でっ!何でこんなことするんだよ・・・っ
捲りあげあられたTシャツからはだけた素肌に
スガタは嬉しそうに口づけて。
その笑顔を見たタクトには
なぜか拒否権などないように思われた。
色々考えていたけれど
やがて、
スガタから与えられる快感に飲み込まれて、
いつしか
溺れるように、スガタに身を任せるしかなかった。