くたばれ進化論
それは人間が考える最大の願いだ。
それは誰もが思う叶いそうで叶わない願い。
幸せ、それを掴んだの一握りの人間しかいないだろう。
運が良い。それだけで幸せになれるかが決まる。
そんなの不平等じゃないか?
「人はみんながみんな、あなたのように幸せを求めているとは限らない」
「確かに。だが、その求めない人たちがこの世界から酷い仕打ちを受けていて、普通もわからない。幸せの意味を知らないのは、それを不平等だとは思わない?」
「世界は平等よ。幸福も不幸も人が望むと望まずと降りかかる。不平等だと思うのは、あなたがそう考えているからよ」
「そんな世界の気まぐれに無理矢理付き合わされているなら尚更だ」
不平等と考える俺と平等と考えている彼女。
どちらかが正しいかなんて俺たちは知らない。
「ヘッド、考えすぎよ」
別に公平を求めているわけではないから、答えもいらない。
ただお互いに世界についての意見を出し合っているだけ。
「そういうサカナちゃんは疎いよ。この世界はそんなに綺麗じゃない」
寧ろ、汚い。
こんな世界を好きになれと彼女は言うんだ。
そんなの俺にはできっこない。彼女もわかっているはずだ。
それなのに彼女は特に変わったことでもないと、難しい解決法をサラリと堂々と言いきる。
「汚いなら、洗えばいいわ」
「…軽い洗濯をするように言ってくれるね」
彼女は決して頭が悪いとか、そういうわけではない。
ただそう…他の人より少し頭が弱いだけなんだよね。
「あなたがそんなにも嫌だと言うなら仕方ないじゃない」
汚い世界を綺麗にしなきゃ。そう言った彼女はやはり本気のようだ。
それが俺のためという理由にも聞こえる。それが嬉しくて、俺は彼女の頬に一つキスを贈った。
「だって、わたしはいつでもあなたの味方だもの」
夢であればと、そう願う俺の思いも虚しく世界は廻る。
俺にも彼女にも俺たちが生きているこの世界にも平等に、廻り続ける。
廻っているだけ。それだけで他はなにもしない。
俺たちのいる世界は悲しみに溢れている。
耳を澄ませばきっと、今もどこかで知らない誰かが悲しみの涙を流しているのが聞こえてくる。
そんな世界が嫌になった俺は決めた。
彼女の手をしっかりと握り、決意を固めた。
「俺が、この世界を壊すよ」
壊す、そして作り変えるんだ。悲しい世界じゃない、優しい世界に。
そうすれば誰も悲しまなくて済む、痛みも何も感じない、優しさだけがある。
この世界は決して平等なんかじゃない。
「あなたは間違ってる。でも、そんなあなたを止められないわたしも、間違っているのよね」
【くたばれ進化論】