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泣くのにも飽きた頃

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砂浜の砂は、手ですくうとサラサラと指の間から零れおちるものだ。
キラキラと海の反射でとっても綺麗だけれども、手でつかみ取ることが出来ないのだ。
それと、似ている。
大切なものも、それと同じで綺麗だけれど指からどんどん落ちていってしまうところが、似ていると思った。

今も、そう。
両手ですくっても、この手の上に彼らはいない。
確かに昔はいたはずなのに。
眩しくて、手を包んでも包みきれない光がとても綺麗で、目を、開けていられないほど。
それはそれはとても大切だったのに。
いつのまにか滑り落ちて、もうこの手にはない。
暖かい、あの輝きがもう手に入らないのだ。
二度と。

そう、二度と?

本当に、そうだろうか。
本当に、もう彼らは戻らないのだろうか。












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泣くのにも飽きた頃










そんなことを懲りずに何度も考える。
考える度に涙が滲む。
前を見れずに後ろを振り返りそうになるけれど。
かつての彼らが叫んでる。

前を向けと、叫ぶから。



拳をつくって足を踏み出す。
怖くなんてないさ。
俺たちが弱かったから。
きっと俺たちが弱かったから、彼は堕ちていってしまったのだ。
もっと俺たちが強かったなら。
彼らを引きとめられるほどに、俺たちが強かったなら。


やめた。



手を伸ばしても届かないなら。
走ってでも追いつこうと決めたのだ。
引っ張りあげて殴ってやるんだ。
そう思わないと今度はこっちが、






闇に引きずり込まれてしまう。


「…半田?」


こつん、と頭を何か固いものが当たる。
突然聞こえた声にハッとしながら、彼は声のする方へ顔を上げた。

「染岡?それ何入ってんの?地味に痛いし」

見上げた先には太陽の影になって表情の読めない染岡の顔。
彼は手元に持っていたバックで半田を小突き、ベンチから立ち上がらせようとした。

「食ってない弁当が二つ」
「はぁ?食えよ。今夕方だぞ?」
「食欲なくてよ」
「てか何で二つなんだよ」
「早弁用」
「阿呆か」

でも結局引きずられたのは染岡の方で、一人分の空いた半田の横に、染岡は腰を下ろした。
二人で日の落ちる太陽を見た。
悲しい色。
寂しい色。
以前よりずっと、見るのが辛くなった、色。

「こんなとこで一人で何してたんだ」

沈黙の間などない。
ベンチに座ると彼は、ここに来た目的を果たそうと口を開いた。

気づかいが下手な彼の、彼らしい気づかい方だった。
つまり、単刀直入。
面倒は苦手。
推し量って思慮深くなんて、彼に似合わない言葉。
ぷっと吹き出して、半田は少し笑った。

「な、なにがおかしいんだよ」
「いや別に?誰かに言われて来たの?」

ぴくりと染岡の身体が揺れる。
図星か、と半田がまた笑った。
後ろを振り返れば、かさりと草木の揺れる音。
微妙に隠しきれてない彼らの特徴のある髪型や体系が、見え見えで面白い。

「心配した?」

ばつが悪そうに頬をかく染岡に、半田が言った。
眉間に皺をつくり、こちらを染岡は振り向く。

「当たり前だろ。なんかオメー消えそうだったしよ」
「消えそう?」
「あーなんつーか…ぼーとしてるからよ」

益々ばつが悪そうにそっぽ向く彼を、半田は少し目を細めて見ていた。
顔を伏せて、ぽつりと漏らす。

「気持ち悪いな」
「な…!」

振り返る。
怒った顔。
感情むき出しの、人間らしい顔。
…あいつらとは、違う。

「…半田?」

先程と違って瞼を伏せた半田のその表情に、染岡は慌てた。
ちょっと落ち込んでいるだけだと思いや、予想以上に深かったのかと心配する。
ちゃんと見ていないと。
もう誰も失わないために。

「なあ染岡」
「な、なんだ?」

泣くもんか。
崩れ落ちたりするもんか。
何度サッカーで倒れたって、こんな気持ちで倒れるもんか。
今ここで、誰かに頼ったりするもんか。

唇を噛み、半田は染岡に向き直る。








…本当は、あいつらに届かなくてもいいんだ。
ここにいたくないだけなんだ。
立ち止まっていることが、お前らのいないこの場にいることが。


ただ怖いだけなんだから。








「キャラバンに戻ろうぜ。今度は追いつかないとな!」




だから嘘の笑顔で、誤魔化した。
みんなそうやって、自分の気持ちを押し籠めた。
不安は伝染するから。

こんな気持ちになっているのは、きっと染岡も同じだろうから。



「…そうだな」


そうして彼も、嘘の笑顔で。









なんで、とか。
どうして、とか。
嘘だろ、とか。

そんなの言い飽きた。
聞き飽きた。
思い、飽きた。

人形になれたらいい。
お前らをひたすら追いかける、心のない人形に。
そうすればこんな気持ちにならなくていいのに。


なあ、円堂。
お前もこんな気持ちだったのかな。



全部任せてごめんな。
弱くてごめんな。
気がついてやれなくてごめんな。
お前に頼って辛いこと全部押しつけて、馬鹿だったよ。

だから、だから戻ってきてくれないか。
なあ。







でも、そんなことも言い飽きたんだ。



作品名:泣くのにも飽きた頃 作家名:林願グ