それでも俺は
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さらりと木の葉の擦れる音がした。
暗い暗い闇夜の中、またかさりと音がする。
さらり、さらり、かさかさかさ。
何かが這うような。
砂の擦れる音もした。
それら別の存在を主張する音を、彼は眼球を殺して聞いていた。
「ごめんね…」
さらり、かさり。
かたかたかた。
震えた手で撫でるは悲しい子供。
ぽたり、ぽたり、
大粒の涙を流しながら、さらさらと気持ちのいい髪を梳き続けた。
「ごめんね、ごめんね…」
泣きながら、しゃくりあげながら。
ただ謝り続けた。
これから先の彼の絶望を。
またかさりと木の枝が音がしたと思うと、彼は今まで止めなかった手を止めてその声に耳を澄ませる。
ぼそりと、空気が震えるとまた一段と悲しそうな瞳を震わせた。
「そうか」
ただその音は告げただけだ。
『時間だ』
彼は梳いていた髪をふとまたひと房手に取ると、覗いた額に手を乗せた。
「ごめんね」
また彼はそう言って、ゆっくりと長い間そうしていた足を崩して立ち上がった。
彼の膝にあった青白いその顔を優しくそうっと下ろして、まだ柔らかい土の上に横たえた。
「ごめんね」
何度目かわからないほど言ったその言葉は、ここに来た時と同じように去り言葉として残した。
彼は歩き出す。
その存在を愛おしげに何度も見やり、振り返り、名残惜しそうにしながら。
それでも彼の後ろに二つ影が出来ると、殺していた眼球を赤く光らせて、彼はとうとう前を向いた。
『あの男が出てきた』
『もう時間がない』
それでも振り返りたかった。
『グラン』
「円堂くん…」
胸は後悔と謝罪で一杯だった。
闇の中に一人横たわるそれに向かって最後だと名前を呼んだ。
そう呼ぶのはきっと最後になると。
グランはそれと決別した。