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長く続いた断食生活はカロルとエステルによってなんとか幕を閉じそうだった。
しかし何故こうも食事をしないことになったかというと、単純に料理担当がいつの間にか分からなくなり、そうしているうちにするのも面倒になり、いつの間にかダイエットをしているという結論にいたり、それにみんなが巻き込まれただけという何とも横暴で、しかし誰のせい、と今は問い詰める気にもならなくなっていた、という流れだった。

ユーリとリタはいくら空腹だとしても慣れている、という理由でまったく平気そうな顔をしていた。
慣れてるというかそれ感覚的には狂っているんじゃないの、とレイヴンはぼそりと漏らしたが、ユーリとリタはそ知らぬ顔で「困らないから問題じゃない」と口を揃えて言うので、レイヴンはそれを聞いて脱力した。もう病気の域だ。




昼を過ぎたあたりで、陽気な日差しから逃れるため木陰を探してへたり込み、空腹でもう動けないというメンバーを置いて料理を作り出したのは、空腹に慣れている、というユーリとリタだった。
カロルとエステルは空腹のあまりうんうん魘されていて、それを見てレイヴンは苦笑する。
カロルの鞄に二人して頭を預けて、眠っている。魘されているのはきっと夢が良くないのだろう。そんな二人をジュディスが木に背を預けながら、二人の背中を交互に撫でた。ジュディスも空腹には勝てないらしく、綺麗な顔の眉間がすこし寄せられていた。
カロルとエステルがだんだん落ち着いてきたのを見ながら、私も眠ったほうが楽かしら、と呟いたのにレイヴンは乾いた苦笑を返す。
料理を始めたユーリとリタはどうやら順調に進んでいるらしく、しかし妙なことをリタがやり始めるとユーリが呆れた様に口を出していた。
本当に空腹など感じていないようなやりとりに、レイヴンはため息を吐いた。あんな様子では確かにユーリの全体的な身体の細さにも頷けるというもので、成長期のはずのリタにも悪い影響を与えかねない。生活基準が微妙に似通っている二人だからこその慣れだろうけれど、良くないな、とレイヴンは思う。
あら、というジュディスの声が小さく聞こえレイヴンは何事かと振り返り、ラピードこれお願いできるかしら、と差出たものを見て、ずっとレイヴンの隣で丸くなっていたラピードがのそり、と立ち上がった。
ラピードには差し出されたそれが何か理解しているらしく、ジュディスの手からそれを銜えて受け取り、軽快な足取りでユーリとリタの元へと歩いていった。

「……なにあれ」
「紐よ」
「紐? なんに使うの?」
「見てたら分かるわ」

そう言われてレイヴンはユーリ達へと視線を向けてぼんやりと見ていると、ラピードから受け取ったものにユーリはものすごく嫌そうに顔を顰めるのが見えた。そして何故かこちらの方を見て、ため息を吐いた後、その紐を使って髪を結いはじめた。
長く黒い髪が綺麗に結われていく。ふむ、とレイヴンは微かに頷き、こういうのも器用なんだな、と思いながら眺めていると普段隠れているうなじが見えて、少し息が詰まった。肌が白い分、なんだか生々しい。

「ジュディスちゃん」
「なにかしら?」

楽しそうに笑うジュディスにレイヴンは疲れたような顔を向けた。

「あれ、目に毒だわ」
「あら、逆じゃないかしら。眼福って言うのよ」
「ああ、うん、じゃあそれでもいいからさ。でも今じゃなくてもいいんじゃないの」
「だって料理中だもの」

ああなるほど。
レイヴンはにっこりと笑ったままのジュディスが大変恐ろしく見えた。
のそり、とこちらに戻ってきたラピードがレイヴンの隣に、まるで当たり前のように座り丸くなる。大きな欠伸をひとつすると、耳をぴくぴく動かしてレイヴンを眼だけで見上げた。レイヴンは小さく苦笑して、頭を撫でる。ラピードは嫌がる様子もなく、撫でているうちに眼を閉じたのでレイヴンは手を離した。

(確信犯、ね)

しかもワンコまで。
レイヴンはそう思いながら、料理しているユーリとリタの方を極力見ないようにしながら、また魘されはじめたカロルとエステルの背中をゆっくりと撫でてやった。



この情景に名前を付けるなら



(みどりのつぶつぶぱんが……)(ハンバーグ、おいしそう、です)
(……。)
(ふふっ、一体どんな夢を見ているのかしら)
(とりあえず魘されてるんだから、悪夢なんでしょうよ)