さくら さくら
雲雀が寝室に忍び込んだとき、部屋の主はまだ健やかな寝息を立てていた。ブラインドの形の外の光もその眠りは妨げないようだ。白いシーツをその体に纏わせ、枕を抱える左手には目にも鮮やかなキャバッローネ当主のシンボルであるタトゥーが彫り込まれシーツの奥へと続いていた。ディーノの寝息に誘われるようにふぁとあくびをした雲雀は学ランを落とし、ディーノが抱える枕を落とし、ベッドに潜り込んだ。ディーノはそのまま雲雀を抱え込み、かたちのよい頭にキスをした。
「ボス。時間ですよ」
「もちょっと」
「とりあえず目を開けてください」
なんだよぅと文句を言おうとディーノは重い瞼を開いた。
「あれ?まだ夢を見てる?」
「十分後に来ますよ」
ロマーリオの言葉をろくすっぽ聞いていなかったディーノの頭はひたすら疑問符で占められていた。腕の中にはすーすーと寝続ける雲雀がいた。確かにほどよいあったかさと触り心地で気持ちよい。しかし、しかし、しかーし、なんでここに雲雀が??ただ、自ら起きない限り寝起きが異常に悪い雲雀を起こすことも躊躇われて、ディーノはあと十分だし、と雲雀を抱え直した。考えてみれば、ロマーリオにも起きないぐらいだからよっぽどだろうと、雲雀をダシにもうちょっと惰眠を貪れないかと画策する情けない己に気付くことなく、ディーノは何度か艶やかな髪にキスを繰り返した。
パチと雲雀の目が開いた。
「お、おはよう」
ディーノは頬と唇の境目に軽くキスをした。
「ボンジョルノ」
雲雀はぼんやりとしたままディーノにしがみついた。
「もう起きる時間?」
「うん、あと七、八分」
なんというか、甘える雲雀なんて滅多にないからディーノはドキドキが止まらなかった。なにより、いつもの如く裸なのだ。雲雀は制服のままらしい。うわー、なんか日本のAVっぽい、とバカなことを考えては余計に心臓を働かせる。
「今日の予定は?」
「え?えっと、ええと、ツナんとこに顔を出して、夜は空いてるぜ」
「そ」
「恭弥は?」
「空いていたら連絡するよ」
するりとディーノの腕の中からすり抜けた。ロマーリオが椅子にかけた学ランを羽織り、隣室へと消えた。反対側のドアからロマーリオがディーノを起こしに再度入ってきた。
「恭弥は?」
「帰った。つか、いつ来たんだ?あいつ」
「さぁ。いつもの事じゃねぇか、ボス」
「ああくそっ。間違った大人になりそうだ」
充分、間違ってますよ、とロマーリオは心の中で吐いて、ブラインドを全開にした。目つぶしだー!と子供のように騒ぐボスをシャワー室へと追いやった。