東方無風伝 1
「笑わない夢は、白む霧のよう♪」
ちらちらと雪が降る街中。一人の少女が暢気に歌いながら歩いていた。
少女の服装は学生服にマフラーとシンプルであった。そして、手には買い物袋をぶら下げて歩いていた。
道を少し外れ、人気が無い道に少女は入って行く。
「さっさと帰って紅魔郷やろ……待ってろおぜう様!」
そんな決意を声に出した。声に出してから恥ずかしくなったのか、キョロキョロと辺りを見回した。
「おんや?」
そして、少女は『それ』を見つけてしまった。
塀と塀の間に存在する『それ』を。
「これ……隙間?」
少女は『それ』を知っていた。まるで空間そのものが切り開かれたようなもの。その隙間の中からは不気味な目が大量に覗いていた。
『それ』は、隙間と呼ばれる空間。空間とまた別の空間を繋げる境目。
「あにゃー?何でこれがこんなところに?」
少女はその隙間へと近づく。
少女はその隙間が本当に存在するものだと思ってなかった。二次元の中だけのものだと思っていた。
だから、少女はその隙間が本物か調べる為に近づいた。
「おぉ~」
関心深そうに意味も無く頷く少女。
少女は隙間の後ろを調べようとしたが、塀と塀の狭間にそれは有るのだ。狭すぎて後ろに回って調べることは出来ない。
だから、少女は別の方法で調べることにした。
近くに落ちていた小石を拾い、隙間へ放り投げた。
隙間はその小石を飲み込んだ。
「うん、解らん」
あっけらかんと結論を述べる少女。『今の自分』では解らない。だったら、やることは一つだけ。
「入っちゃえ」
少女は歩み寄った。
もしこれが、自分の知っている通りのものだったら、自分に害が無いことが解っている。
ではその自分の知識と感覚が間違っていた場合。少女は、それでも良いと思った。どちらにせよ、何かが起こる。そう期待した。
「うわっ、とっとっと……」
隙間まで後一歩というところだった。
突然風に押され、バランスを崩しかけた。
塀に手をつき、バランスを整えた。
「ふぅ……危ない危ない」
そして少女は顔を上げた。
「あり?」
顔を上げた先には、もう隙間は無くなっていた。
「どーしてよー!」
其処には何も無かった。先程までは確かに有った空間の隙間が。
少女は叫んだが、その叫びを聞くものは誰一人として居なかった。