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ハルジオン(スパコミサンプル)

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飴色の夕焼けが家々の間へと沈んでいく。頭上の空は段々と夜色に染められていく。そう言えば、あの時もこんな空だったな。円堂が俺をサッカー部に誘いに来て、俺が円堂の気合いにのったあの時も、一番星がやけに綺麗な夜空だった。
「ごめん風丸! 待ったか?」
「いや、今来たところだ」
 円堂が息を切らしていると言う事は、かなり急いできたのだろう。わざわざ休日に俺を鉄塔広場に呼び出すくらいだ。余程の事態だろう。サッカー部の事なら電話で済ませても良い。つまり、サッカー部以外の事と言う事だ。
「それで、どうしたんだ?」
「あ、えっと、風丸には一番に教えようって思って、それで――」
 いつもの円堂らしからぬ様子で、目の前の幼馴染は視線をあっちへこっちへと泳がせ、更には顔を赤く染めている。いや、それは夕日が彼を染めているのかもしれないが、とにかく、いつもの円堂と違うのは一目瞭然だった。
「円堂?」
 俺が声を掛ければ意を決したようで、円堂は真剣な顔つきになる。
 それは、今まで俺が見た事ない円堂だった。
「俺、彼女が出来た」
 サッカーをやる時にもこんな真っ直ぐな目をした事があっただろうか。
いや、比べる対象が違う。サッカーと彼女でどう比べろと言うのか。
 混乱しているのか、頭が上手く回らない。どう、声を掛けるべきか。どう、言えば良いのか。
「かのじょ? お前に?」
「同じクラスの奴でさ、今日の特訓の後に呼び出されて、それで好きだって言われて……」
「そう、なのか……」
 おめでとう。何がおめでたいのか分からないけれど、口を突いて出たのはその一言だけだった。
 円堂は、照れくさそうに笑った。
 俺は何故か、言い知れぬ不安に襲われた。
 一番星が寂しげに輝いた夜だった。
 次の日、学校に行けば円堂に彼女が出来たと言う情報は広まっていた。世界一のゴールキーパーに彼女が出来れば大騒ぎになるよな、なんて思いながら俺は席に着いた。
 すると、周りに女子がわらわらと集まってきて円堂と噂の彼女についてあれこれ聞き出そうとしてくる。
 知らない、と一言答えると幼馴染なのに、と返された。
 幼馴染なのに、知らない。
 俺は円堂を分かっているようで分かっていない。
 幼馴染なのに、俺は円堂を知らない。
 放課後、部室に行けばそこでも円堂の噂をしていた。
 当然、俺には朝のホームルーム前や休み時間と同じ現象が起こった。
「なんだ? 皆元気だな」
 そこにタイミング良く円堂が入ってきてしまった。
 ああ、ますます騒々しくなるな。
「キャプテン! 彼女出来たって本当でヤンスか?」
「どんな人ッスか? 可愛い人ッスか?」
「どっちから告白したんですか?」
 うるさい。
 ユニフォームに着替えながらちらりと横目で見れば、騒ぐ後輩達に囲まれた円堂は困ったように笑っていた。
「ほらお前達、とっとと準備しろ! 練習の時間がなくなるぞ!」
 俺が一喝すれば後輩達は背筋を正して外へと走っていった。
 残った同学年達は苦笑し、さすが、なんて声を掛けて出ていった。
 何が『さすが』なんだか。
「ありがとうな」
「え?」
「俺が困っていたから助けてくれたんだろ?」
 円堂は眉尻を下げて笑う。
 別に、助けるとかそんな事は少しも思っていなかった。ただ、煩わしかった。それだけだ。
 着替える円堂を置いて、俺は先に部室を出た。
 あ、しまった。ありがとうの返事を忘れてしまった。助けたつもりは無い、なんていつも通りに答えれば良かったのに。