神社
星座は空から姿を消し、東の空から漏れる光が早朝の神社に降り注いでいる。
「夜が明けましたね」
「ああ」
行正の言葉に正守が頷いた。
昨夜、この神社の境内に毎夜現れるという妖を退治するために、行正と正守の二人でずっと張っていたのだが、結局妖は姿を見せなかった。
「無駄骨か」
「ひとつわかったじゃないか」
正守が悪戯っぽく笑う。
「何がです?」
「ここの妖は、シャイだってことさ」
茶化すような正守の言葉に、行正は肩を落とした。
「まったく、毎夜のように暴れると聞いたから俺と頭領で来たものを、シャイだからで出現しないのではこの先が思いやられます」
「まあそう言うな」
「大体俺一人でも大丈夫だったのに」
「違いない」
正守の思ってもみなかった肯定の言葉に、行正は食ってかかった。
「じゃあどうして、頭領までついてきたんですか」
「どうしてだと思う?」
「え……」
さっきから自分のペースがつかめない。行正は素直に降参した。
「わかりません」
「俺が来たかったから、だよ」
ハッとして顔を上げると、正守は本心の見えない笑顔を浮かべている。
行正はたまらない気持ちになって……気が付いたら、正守に抱きついていた。
「行正?」
「頭領はずるいです」
だれもいない境内に二人きりになって、ずっとこらえていたものが朝日と共に吹き出してきた。それは思慕の念だった。
「俺のどこがずるいって?」
俺の気持ちを知っているくせに、と行正は心の中で叫ぶが、声になってくれない。
だから正守の顎を掴んで自分に向かせると、その唇を奪おうとして――
バシン!
正守が行正の頬をひっぱたいた。
「行正、お前……」
正守は常にないほどオロオロしていて、その姿を見るとともに心が落ち着いてくる気がした。
「……冗談ですよ、頭領」
「本当に?」
「……」
答えを言えば困らせるだけだから、行正は口をつぐんで正守を解放した。もともと口数の多い方ではない行正の態度はいつもと変わりなく見えていたのだろう、正守は軽く息を吐くとまぁいい、と呟く。
「こんな日の下でそういう事をするのはやめろ」
「夜ならいいんですか」
思わず意気込んで聞いてしまった。がっついているように見られたら恥ずかしい、というか事実がっついてしまっているのだが。そんな行正に正守はふ、と笑顔を向ける。
「バカ。……いいよ。ここの妖の退治が終わって、俺が一人の時なら、な」
「え……」
思いがけぬ肯定に行正が顔を真っ赤にすると、正守も少し紅潮させながら頭を掻いた。
「お前、けっこう正直者だな。俺もだけど」
そしてまたくつくつと笑う。
それでも。
否定されなかったというだけで、行正は身体が震えるほどに嬉しい自分を自覚していた。
<終>