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理解した。

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いつもと変わらない世界の色。いつもと同じ様に私の髪を結う男。彼の綺麗な指に梳かれ、3つに分けた髪束が編まれていく。最後に、つむじの左右に緑色の髪飾り。
「…終わりましたよ、ヒャクレッガー」
「ありがとう」
 彼に会うまでは自分で編んでいた。それでも、私の髪は長すぎて、自分一人では上手に編めなかった。
「髪の質も良いですし、たまには別の結い方もさせてもらえれば嬉しいのですが」
「…副隊長との、約束だから」
「そこまで大事な方なのですか?」
 翡翠のような綺麗な緑色の目で顔を覗きこまれると、いけないと思いつつも頬が赤らむのが解る。私は副隊長が好きなのに。副隊長には会えないから、私は誰かに思いを寄せる事も無いはずなのに。
「…大事、に決まってる。私を認めてくれたのは、副隊長だけ…」
そう思い込んでいるだけかも知れない。副隊長は私を認めてくれてないのかも知れない。
 こんなに不器用で、誰かに本音も言わないで、嘘は吐かなくても何も答えないずにやり過ごす奴なんて。副隊長にも迷惑だった。話しかけられても何も言わないし、それどころか睨みつけて。話しても、敬意も何も無い言葉で返す。そんな私を認めるなんて嘘だ。
「自分を認めた方との約束ですか」
「…そう。認めてくれたなんて、私の思い込みだけど」
 微かに自分が笑っているのが解る。副隊長に対しては笑わなかったのに、どうして彼に対しては素直に笑える?
「…笑わない方が、貴方は美しいですが」
普段から何を見ているのか、何を思っているのかが読めない緑色の瞳が、私への興味を失ったように見えた。
「そうやって寂し気に笑うなら、笑わない方が良いですよ」
 過去に副隊長が言っていたのと、同じ言葉。あまりにも笑うのが下手な私に対して、副隊長は言っていた。
 ―お前は可愛いんだから、笑ったらもっと可愛いから― ―何で、そんな寂しそうに笑うんだ?寂しそうに笑うなら、笑わない方がマシだぜ?―
 そうだ。私は笑わない方が良いんだ。笑うのが下手だから、寂しさが出るんだ。なら、笑わなければ良い。
「…副隊長と、同じ事言わないで。また寂しくなるから」
 言うと、モスミーノスの緑色の瞳が揺れた。不思議な光が宿ったと思ったら、頬を叩かれた。
 直後、私が知っている限りでは初めてモスミーノスが言葉を荒げた。

「いつまでも副隊長さんの事を言わないで下さい!私だって、貴方が好きなのですよ!?それを…もう会えない方と比べられて!そこまで会えない方が愛しいのですか!?」
「…ッ愛しいに決まってるじゃないか!お前が…モスミーノスが私を好きだろうと嫌いだろうと関係無い!私は副隊長以外に思いを寄せる相手なんていないんだ!」

 モスミーノスが私を好きだろうと嫌いだろうと関係無いなんていうのは嘘。本当はモスミーノスが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方ない。それでも、私は嘘を吐いた。
 私が最初に好きになった相手、副隊長は、私が嘘を吐けばその倍、正直な行動で返してくるから。私が副隊長を嫌いと言えば、それでも好きだと言ってくれるから。
「…解らない癖に。私が嘘を吐いたかどうかも、嘘吐きの私がどうして欲しいかも知らない癖に!」
「私は副隊長さんの代わりになろうとは思っていません。貴方に好かれたいとは思いますが、副隊長さんの代わりにはなれませんから」
「誰も副隊長の代わりが欲しいなんて言ってない!私はもう、誰かの慰み者になんてなりたくない!」
 また、頬を叩かれる。あまり痛くはないのに、何故か泣いてしまう。
「私は貴方を慰み者にしようなどと思っていません!ただ純粋に…純粋に貴方が愛しいだけです!」
 どうして、お前が泣くんだ。泣きたいのは私なのに。愛しいと言われて、初めて愛しいと言われて。副隊長にも「好き」なんて言われた事も無かった。「可愛い」と言われただけで、私は副隊長に好かれた訳では無いんだ。
 まだ、涙が頬を伝う。それでも、笑わずにいられなかった。寂しいから。過去の事を思い出して、寂しくなったから。私の笑顔は寂し気。なら笑えば良い。私が泣きながら笑ったら、モスミーノスはどう対応してくれる?私に初めて「愛しい」と言ってくれたモスミーノスは、どう対応してくれる?
「ヒャクレッガー…」
 そうやって、対応してくれるんだ。私を抱き締めてくれるんだ。副隊長は、抱き締めてくれないはず。だって、あの人は、あの人は。
「大丈夫ですよ。私は貴方の傍にいます。不足なら、いつでも抱き締めて差し上げます」
「…モスミーノス」
 柔らかい髪から香る、不思議な匂い。異臭なのに、何故か心地良い。副隊長の傍にいても、こんなに心地良い感覚は無かった。
「…ありがとう、モスミーノス」
 副隊長なんて、ただの幻想。認められたのも、私の思い込み。愛されてなんていなかった。好きだったのも、きっと幻想。

 ようやく理解できた。私はこんなにもモスミーノスが愛しいと感じている。モスミーノス以外に、愛しい存在なんていらない。まして、二度と会えない人なんて。
作品名:理解した。 作家名:グノー