食べるもの
いきなり、目の前の骸が言った。
「僕は何も食べることができません」
嘘をつくなと思い、皿を見ると本当に手を付けていなかった。
「不味いの?」
「いいえ、ただ食べられないんです」
人は何も食べなくなると死ぬと聞いたことがある。
なのに骸は生きている。
本当に怪物かと思っていた。
少し目の前の人間が怖くなった。
そう雲雀が考えているとき、骸は違うことを考えていた。
――――――――――
僕は『食べないんじゃない』、『食べられないんだ』。
僕は世界中のあらゆるものを食べてきた。
もう、普通の食べ物に飽きてしまったんだ。
だから、食べられないんだ。
そう思って不意に唇を噛むと、赤い液体が口の中に流れてきた。
液体の味は悪くない、
そう思ってその味の余韻に浸っていた。
そうだ。
なにも世界中の物を食べなくてもよかったんだ。
だってもうここにあるじゃないか。
『自分』という物が。