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Goodbye My Wings04

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シエルがアルトを乗せた車椅子を押して屋上に出た頃にはもう日が傾きかたけていた。
ブロンドピンクの髪に風を感じながらシエルはそれを右手で掻き揚げた。
「初めは生きるために歌ってた。」
もう10年以上前のことだ。
グレイスに拾われたときのことをシエルは思い出していた。
身寄りを失くして路地裏を彷徨うシエルを見つけ、その声帯がバジュラを寄せ付ける感染病に感染していることを知ったギャラクシー上層部人間はシエルを利用することを考えた。
そしてその手足となり行動していたグレイスに育てられてシエルは歌うための訓練を徹底的に叩き込まれた。
歌うことでシエルは生かされたのだ。
「だけど、いつの間にか歌うために生きていた。」
舞台に立って歌うことが楽しくなってアカデミーの成績も伸びてきた頃、シエルは舞台で舞うアルトに出会ったのだ。
それからはいつか自分も歌で銀河を震わせたい、という思いからシエルはだんだんと歌にのめり込んでいった。
それでも早くにその才能を認められたアルトと違ってシエルにはアカデミー卒業後は小さなバーで歌う長い下積み時代があった。
歌で生きることがどれだけ厳しいことか悟らされながらも、より大きな舞台に立つためにシエルはありとあらゆる努力をしてきた。
そのためには歌以外のことでスポンサーに取り入ることもあった。
それでもシエルの歌に対する気持ちは変らなかったし、寧ろどんどんとその魅力に飲まれていった。
「ステージが始まる前の静寂が好きだ。幕が上がるときの胸の高まりが好きだ。」
瞳を閉じればシエルはステージにいて、目の前には何千という観客がいた。
シンと静まりかえった闇の中でドクドクと高鳴る鼓動。
マイクを手にした瞬間その空間はシエルと一体となって震えだす、それが始まりの合図。
「そして観客の熱が一気に本流となって俺の中を駆け巡って、俺はその熱に乗って銀河の彼方まで行くんだっ!」
ゾクゾクと身を震わす快感とともにどこまでも自分を突き上げてくる観客の熱。
想像するだけでも熱くなっている自分にシエルは苦笑する。
歌いたい。
シエルを突き動かす気持ちはただそれだけだった。
「俺は舞台という魔物に取り憑かれた生き物。」
車椅子から手を放しシエルがアルトの前に回りこむ。
正面からアルトと向き合うと、アルトがシエルに微笑んだ。
シエルは歌うためになんだってしてきたし、これからもするつもりだった。
しかしそのためにアルトをこれ以上危険な目に合わせたくなかった。
屋上から見えるビルのモニターにはシエルが写っている。
歌が始まるのだ。
この歌を合図にグレイスたちギャラクシーの人間が動きだす予定だった。
きっと大きな戦いになる。
(そのときこうしてまたアルトが・・・っ!!)
そう思うと言わずにはいられなかった。
「なぁアルト、飛ぶのをやめてくれ。」
「え?」
アルトの表情が驚きに変る。
それはかつて自分がアルトに言われた言葉だった。
だからこそ簡単にアルトがその言葉を受け容れないことを知っている。
アルトいにとって飛ぶことはシエルにとって歌うこと。
それでも気づけばアルトの膝に倒れこむようにシエルはそこにしがみ付いていた。
「お願いだっ!アルト!飛ぶなっ!軍人は他にだっていっぱいいる!だけど・・・っ!」
言葉を失くしてただシエルを見つめるアルトにそれでもシエルは必死で訴えかけた。
「だけど早乙女アルトは一人しかいないんだっ・・・!!」
シエルの声がバジュラを引き寄せている。
だからアルトを戦わしているのは紛れもなく自分であることは重々承知の上だ。
その上でシエルは歌うことをやめない。
(もうこんな我侭言わないからっ!)
それがどんなに自分勝手なことかわかっていたが、それでもシエルは歌を捨てることはできないし、またアルトをバジュラと戦わすことも嫌だった。
目の奥が熱くなって鼻をツンと何かが突き抜けた。
そのことを悟られないようにアルトの膝に顔をうずくめると遠くからダイアモンドクレパスが聞こえた。
(…もう時間がない!)
「アルトくんっ!」
そう思ったとき二人の沈黙を突き破るような活発な少女の声がシエルの耳に入った。
「…ランカちゃん?」
顔を上げるとアルトの姿目掛けて今にも駆けてくるランカと目が合った。
「あ…シエルさんっ…!」
涙に潤んだシエルの存在を確認したランカがそれまでの状況を予測して、自分がひどく間の悪い登場の仕方をしてしまったと思ったのかランカがびくっと振るえ動きが急に止まった。
「ご、ごめんなさい!…きゃっ!」
ランカが大げさに一礼して去ろうとすると数歩踏み出したところで前のめりにこけた。
「あっ、おい!ランカ!」
その様子にすかさずアルトが車椅子をランカの方に押す。
シエルは手持ち無沙汰になった手を宙に浮かせ自分のもとを離れていくアルトの背を複雑な気持ちで見つめていた。
(やっぱりアルトは…。)
ずっと胸のうちに潜む感情がざわざわと蠢き、ずきりとシエルの胸が痛んだ。
苦悶の表情にシエルが眉を歪めたとき、不意に空気を切るような鋭い音が耳障りに響いた。
「これは見事なトライアングルだ。」
スローペースの拍手音、低い威圧的な声。
シエルはその声も話し方もよく知っていた。
モニターのダイアモンドクレパスが突然シャットダウンして、現れた人物。
レオン・三島がシエルの前にいた。


to be continued...


/あとがき
もー記憶力が曖昧です^p^
そして映画版と違うのはシェリ男はスパイを自覚して前面協力してるとこです。
作品名:Goodbye My Wings04 作家名:kokurou