残念にならない心残り
「お前は俺の運命だ」
なぁ、そうだろう。レイリー。
そう言って笑う男に、どこまでもこの世界は甘い。
はぁ、と癖になりつつある溜息をひとつ吐いて、レイリーは口を開いた。
「お前のふてぶてしさには呆れる」
そう呟けば、何が不思議なのか首を傾げ、頭の上にはてなマークを飛ばす。
大の大人、それも男がやってかわいい仕草ではない。
いらっと来て頭を力いっぱい殴ったが、常人であれば地面に突っ込むほどの力であったにも関わらず、男はからからと愉快そうに笑っている。
「おめえのそういう荒っぽいところは好きだ」
日頃から己の好むものに対して(それが人でも動物でも、無論無機物でも)言葉を惜しまない男は、にかっといつもの笑みで応えを返す。
それは決して会話にはなっていなかったが、レイリーの毒気を抜くには充分であった。
そもそもこの自分が疲れるほどの戦いの後だ、この船長の相手をするほどの元気はない。
己の剣についた血を払い、ごろごろと転がる敵を踏みつけながらまだばたばたしているだろう自分たちの船へと足を向ける。
その後をにかにかと笑いながらついてくる己の船長に再び溜息をつきながら、きっとこの男に死ぬまで振り回されるのだろう自分を想像して笑えなかった。
どこまでも世界の中心であり続ける背後の男は、男の言葉の通りまったく俺の運命なのだろう。
なにがあろうと、どこへゆこうと、お前と俺が生きている限り。
お前が俺の指針だ、残念だよロジャー。
酷く残念な現実に頬を緩ませると、後ろの男がレイリーを追い越し船に飛び乗った。
逆光になり目を眇めるレイリーを上から見下ろし、大声で男は言った。
「そいつは残念だレイリー!俺は死なねえぞ!!」
その言葉に一瞬目を見開き、しかし一瞬のちに片頬を吊り上げ。
レイリーは己が船長を海へ蹴落とすべく、地面を蹴った。
「まったく、実に残念だ、ロジャー」
お前は確かに、俺に嘘を吐かなかった。
映像は未だ、熱に浮かされた人々を映している。
レイリーはからん、と氷を転がし、大々的に動き出した世界と、己の運命である男に一人乾杯をした。
残念にならない心残り
(残念:期待と食い違った結果や状態に落胆し、心残りに感じること)
作品名:残念にならない心残り 作家名:ゆうや