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DDFF:とある方向音痴の出来事について

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「どっちだろう?」
「ん~こっちじゃねぇの?」
「本当かぁ……?」
ヴァンとラグナが二手に分かれたひずみを見てあーでもない、こーでもない、と話をしている。
「今までラグナが「こっちだ!」って言った道、全部違ってたじゃん?」
頭の後ろで手を組み、ヴァンは言葉の節々に呆れた、という色を滲ませて言う。
「そんなこと言うならヴァンくんが選んでみりゃいーじゃんよー。どっちが正しい道だよ?」
「さっき選ぼうと思ったらラグナが止めたんじゃないか」
「だってさー。あっちにはこわ~~~~いお人形が彷徨いてるの、おまえも見ただろ?」
「それで迂回したら迷ったんだったよな?」
「そ、それは避けられない出来事だったと思おう!」
延々と繰り広げられる不毛な会話を聞いていたティファが苦笑を漏らす。
「まだやってるよ、あの二人」
腕組みしてその様子を見ていたライトニングは苦笑すら漏らすことなく、視線を別の方向へと向けた。
「どうしよう、止めよっか」
「放っておけ。……どちらかが折れるまで続けるつもりだろうから」
「ん……それはそうなんだけど」
最初は余裕ある軽口の応酬だったのが、だんだんとヒートアップしてきている。
「だーかーらー!! あっちが聖域の方向だろー!? 何でこっちなんだよ!」
「道はまっすぐばかりじゃないだろーがっ!」
ヴァンの手に力が入り、ラグナの口調も厳しくなってきていた。
なかなか収まる様子のない二人に、ティファがため息をつく。
「……やっぱり止めてくる」
戦闘となれば真っ先に先陣を切り、容赦なく敵を叩きのめすティファではあるが、仲間同士のもめ事には気になるらしい。
彼女が不安そうな顔をしているのは分かっていたが、ライトニングは敢えて彼らには関わらず静観していた――今もティファが二人の方へと歩いていくのを、見つめるだけ。
「もう、やめなさいよ。どっちに行くかでモメてる場合じゃないでしょ」
ティファが間に割って入ると、ラグナとヴァンは同時に彼女に視線を向けた。
「――えっ?」
「ティファはどっちにする? 右か、左か」
どうやら今度はティファに決定権をゆだねることにしたらしい。
「ラグナが決めて迷ったんだし、今度はティファが決めてくれよ」
「くぅう~~まだ迷ったと言うかっ」
ヴァンにずい、と攻め寄られ、ティファが臆したように後ずさる。
「なぁ、ティファ。どっちが良いと思う?」
「え、えぇっと……」
「そこまで言うならティファに任せるぜ。ヴァンがそれだけ推すってことは、信頼してるってことだろーしなぁ?」
「その……」
――その問題な言動のほうが先に見えてしまって日頃はほとんど意識していないが、ヴァンもラグナもいわゆる「カッコいい」という部類に入る顔立ちだ。
黙って立っていればかなり目を引くだろうと思う――この世界でそれがどのくらい役立つのかは分からないが。
そんな二人に詰め寄られるように接近されては、元々奥手なティファは後ずさるしかない。
「わ……私、は」
「……私は?」
そのとたん、ティファは身を翻してライトニングのほうへと走りだしていた。
「逃げた!?」
ラグナが声をあげた時には、ティファはすでにライトニングの後ろへと逃げ込んでいた。
「こら、ティファ! ちゃんと答えてから……!!」
そう言いながら近づこうとしたラグナは、ぎくりと足を止めた。
「ごめん、助けて、ライト……!」
彼女に服を掴まれてそう懇願されてはライトニングも無視し続けられない。
はぁ、と大きくため息を一つついてから――彼女はぎらり、と二人……ラグナとヴァンに視線を向けた。
「――で。どちらに向かう……と?」
冷えきった、絶対零度のような声が聞こえてくる。
「右がいいか、左がいいか――その根拠を言え、私が判断する……しっかりした根拠があるからこそ、今モメているのだろうし……?」
彼女が持つ剣が光を帯び、形状が変わっていく。
もし、下手に答えようものなら必殺技が飛んでくる。それこそタイムラグなしで放たれるだろう。
「……ええっとー……」
「ら、ライトが決めてくれていいぜ!」
必死に言葉を探すヴァンの横で、ラグナがうわずった声をあげた。
「ライトの判断なら絶対だろうし、なっ!?」
「あっ……う、うん! そうだと思う!!」
ラグナにつつかれてはっと我に返ったヴァンが同意を示す。
ライトニングはじっと二人を見つめ、口を開いた。
「――私に一任するんだな?」
冷え切った口調で確認をされ、ヴァンとラグナがこくこくと頷く。
ライトニングは剣をしまうとティファの腕をそっとほどいた。
「地図で見ればこちらが近道だ。行くぞ」
それだけ言って身を翻し、ライトニングは自分が指し示した方向へと歩き始める。
とりあえず――完全に機嫌を損ねた訳ではなさそうなのを感じ取り、二人はほうっと息をついた。
ラグナが恨めしそうにティファを睨め付けた。
「ティファ~~……ライトに助けを求めるのは卑怯だぜェ……?」
「だ、だって! そっちがいきなり振るんだもの……」
「怖かったな……雷、落とされるかと思った」
ヴァンのため息混じりの声を遮るように、ライトニングの声が聞こえてきた。
「遅い! 行くぞ!!」
三人は「はーい」と返事を返して、あわててその後を追ったのだった。






END