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真夜中の贈り物

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靄のかかった頭に、僅かに戻ってきた光。
薄ぼんやりと閉じた眼を開くとそこには見慣れた天井があった。
「…ん…………」
オレの記憶が正しければ、マフィアのボスの大変さを身に感じつつ書類と格闘すること数時間。
ようやく仕事から解放された夜の二時頃、ベットに入ったような気がする。
(……今…何時…?)
閉じたカーテンの向こうに灯りらしきものはない。
恐らくまだ深夜と呼べる時間なのであろうが、この暗闇では壁掛け時計を見る事は叶わなかった。
仕方なくオレは、手探りでベットの上においてある筈の目覚まし時計を探す。
「あ」
だが、乱雑に手を動かしたのがマズかったのだろう。
掴まれる前にオレの手の甲にぶつかり、そのまま地面と転がっていってしまった目覚し時計。
俺は小さくため息を吐き出して、地面に転がった時計を取ろうとベットから降りた。
否、降りようとした。


カチッ…………


「えっ…!!」
だが、小さく聞こえる撃鉄の音がそれを妨げた。
(まさか、刺客…!?)
思考が現実に追いつくと同時にこみ上げてくるは焦りと恐怖。
だが疑問の声を上げる余裕なんて、オレにある筈もない。
暗闇に慣れてきた視界に映る銃口は、性格に俺の脳天へと向けられているのだから。
(ころ、される)
武器を取ることは出来ない。
声を上げることも出来ない。
動くことさえもも出来ない。
「 scacco matto 」
ただ宣告される死を聞く事しか、出来なかった。





パンッ……………





「ふがっ!」
乾いた銃声の後に襲ってきたもの。
それは銃弾による痛みではなく、オデコをしこたま殴られた時のような衝撃だった。
「気付くのが遅せーぞ、駄目ツナ」
「いでっ!」
更にトドメとばかりに落ちてきた拳骨に、俺は頭を押さえて悶絶した。
涙が浮かぶ眼に映ったのは、投げ捨てられた拳銃。
恐らく先ほど俺に向けられていたものであろうその銃口からは、
バネが飛び出しており、その先にはボクシングのグローブのようなものが取り付けられていた。
「これがホンモノだったら、お前死んでるぞ」
パチリという音と共に灯される部屋の明かり。
俺は突然の光に顔を顰めつつも、露になった加害者を睨んだ。
「い、いきなり何すんだよ、リボーンっ!」
「何って決まってんだろ、特訓だ」
真っ黒のスーツとキッチリと纏い、室内であるにも関わらずボルサリーノを被った男は
ムカツクまでに優雅な仕草で壁に背を預け、呆れたように俺を見ている。
そんな太々しい加害者は、それは俺の昔からの家庭教師だ。
「それにこんなのはいきなりやらねーと意味がねーからな」
「だからって、何もこんな時間にする事はないだろっ!?」
俺の批難をコイツが聞き入れる事は恐らくないだろう。
だけど、俺としては訴えずにはいられなかった。
地面に転がったままの時計は、朝の4時である事を告げている。
「ったく…夜くらいゆっくり寝かせてくれよな!」
朝は早くから書類と戦い、午後は午後で同盟ファミリーとの会合。
何かと忙しく慌しく、ようやく日付が変わった夜のひと時だけが俺の平穏の時間だと言うのに。
(って、やばっ…!!)
そして決まっていつも、訴えた後に後悔する。
何故なら大抵、『ファミリーのボスが甘っちょろい事言ってんじゃねーぞ』という不機嫌な声と共に、
教育的指導という名の凄まじい蹴りが襲ってくるからだ。
「……………?」
だが反射的に身構えるも、今日はいつもとは違った。
幾ら慌ててみても、そんな過剰な"教育"は俺の身には降り注いでこないのだ。
リボーンはただ、無言で俺を睨み続けるだった。
「……リボー、ン?」
「だったら、寝てろ」
「え?」
「そーすりゃ、誰かがお前を守ってくれる」
リボーンは地面に放り投げてある銃を拾うと、無造作に回す。
「それがボスってもんだ」
ボス、それは組織のトップに立つものに与えられる呼称。
つまりこのボンゴレファミリーの中では、オレという事になる。
「身を挺してでも"部下"は"ボス"を守る、それがマフィアの常識だ」
オレは知らず知らずの内に布団を強く握り締めていた。
リボーンが冗談を言っているとは思っていない。
幾らオレだって、薄々は感づいている。
それが一般的にまかり通っている"常識"だという事くらい
でも。
だけど。
「それが嫌ってんなら、死ぬ気で起きろ」
オレは、嫌だ。
そんなのは、絶対に嫌だ。
誰かがオレの為に傷つくなんて、絶対に絶対に嫌だ。
「…分かったよ」
だからオレはリボーンノ言葉に小さく頷いた。
「最初からそう言やいーんだ」
満足そうにそう言うと、懐に銃はしまわれた。
俺は大きく息を吐き、そのままベットに仰向けになり眼を閉じる
だが既に眠気なんてものは、とっくの昔にどこかへ飛んでいってしまっていたようだ。
(…"ボス"、か)
走馬灯というのが正しいのかは分からないが、数年前の日々が頭の中に浮かんでくる。
破茶目茶で、無茶苦茶で、だけど物凄く充実していた日々。
もう、戻る事は出来ないあの頃。
変わってしまったものは、はかりしれない。
「………なあ、リボーン」
だけど、変わらないものもある。
支えてくれる仲間がいて、傍にいてくれる友達がいて、大好きな人達がいる。
「何だ?」
「俺、なれるのかな?」
マフィアになんて絶対になりたくなかった。
そんな危険で危ないものには、一生関わりたくなかった。
ましてやそのトップなんて、絶対に絶対にゴメンだ。
それは昔からずっと思っていた事だし、今だってその気持ちは変わらない。
それでも俺が今、ボンゴレのトップに立つ者としてここに在るのは。
そんな人達を、大事なモノをこの手で、守りたかったからなんだ。
「"ボンゴレのボス"に」
肩書だけじゃない。
大事な人に守られるんじゃなくて、自らの手で守る事が出来る。
そういうボスで、ありたい。
「…さーな」
開いた眼に映ったもの。
それは見慣れた天井ではなくリボーンの顔。
逆光ではっきりとは分からないが、その口元は笑っているように見えた。
「何たってお前は根っからのダメダメだからな」
「ちぇ、言ってくれるなぁ」
「本当の事だぞ」
取り付く島もなくそう言うと、リボーンはオレの真上から何かを落とす。
勿論それをキャッチするなんて芸当が出来る筈もなく、オレの顔面飛び込んでくる質量のある物体。
それはいつの間にか拾われていた、オレの目覚し時計だった。
「でも、安心しろ」
オレの抗議の言葉を待たず、リボーンはそのまま部屋の扉へと足を勧める。
そしてドアノブを掴んだまま、肩越しにこちらへと振り向いく。
「その為に、俺がいるんだ」


「そーいう事だから、明日から1日36時間ネッチョリ面倒見てやるから覚悟しておけよ」
「明らか何かおかしいだろ、それーっ!!」



リボーンは楽しそうに笑った。



- 真夜中に君のくれたモノ、それはスリル溢れる特別授業 -
作品名:真夜中の贈り物 作家名:柚 子