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妙な夢を見た。
一時期によく見た悪夢ともまた違う。
妙な夢だったことしか覚えていないような、そんな妙な夢だ。
唯一覚えていたことといえば、それは…


気づくとおれはそこにいた。
辺りには四角くて背の高い建物がずらりと立ち並び、そのどれもが、壁に規則正しく並んだ四角い窓からこうこうと光を発している。
そんな建物は見たこともなかったのだが、なぜか「日本帝国だな」ということだけはわかった。
人は皆洋装をしている。和装の人間はほとんどいない。
そしてその誰もがおれには気づかないようだった。
試しにすぐそばを歩く人に触れようとしてみたが、その手がすっ、と相手をすり抜けた辺りで
(これは夢なんだろうな)
とぼんやりと自覚した。
その瞬間場面が切り替わり、次に見た光景は言葉を失うほどのものだった。
木と瓦礫だけになった家屋、有り得ないほどに大きな津波、逃げ惑う人々。
なんらかの災害が起きたのは明らかだった。
「これは…いったい…」
ひとりだけ、現実から切り離された空間で、おれはそう呟くしかなかった。
「あれ? 富樫くん、なんでそんな格好してるのすか?」
不意に、横から声がした。そちらに顔を向けると、黒い服を来て黒い帽子をかぶった、少々彫りの深い顔をした男がきょとんとした表情でこちらを見ていた。
見覚えはないのに、なぜか懐かしい雰囲気のある顔だった。
「トガシ?どなたですか?」
「ありゃ、別人のすか。ごめんのす!お前にものすごくそっくりな顔した友達がいるのすよー!」
その、語尾が変な男はそう言いながらあたりを見回す。
「俺が飛べるやつなら良かったのすけどねー…残念のす」
「…飛べるやつ?」
「アトムみたいだったら良かったなろわいよー!力も十万馬力だし、ものすごく優しいし!きっと大活躍できただろわいよー!」
「…あとむ?」
「…お前、アトム知らないのすか?」
さっきからちょくちょく出てくる「お前」という単語には少々むっとするが、気にしないことにする。
どうも、この男は誰にでもこの口調で対応しているようだ。
「ええ、知りません」
「そうのすかー…もしかして、平成時代よりも昔の人のすか?」
「へいせい…時代?」
「年号のすよー」
「おれは大正の人間ですが」
「やっぱりそうのすか!」
その途端、男の顔がぱあっと明るくなった。
「だったらお前は心配しなくていいのすよ!俺、ずーーーーーーっと未来に住んでるけど、この震災も、知らないとわからないくらいに元通りになるのす!それどころか、もーーーーーーーーーーっと発展して、スクリーンのいらない立体映像とか冷凍睡眠装置とか空飛ぶ人型ロボットとかが作られるようになるのす!なーんにも心配することないだろわいよー!!」
男は大げさに身振り手振りを交えながら、嬉しそうにそう言い切った。
そんな夢物語のような言葉。しかも、見も知らぬ変な男に力説された言葉が、おれには妙に信じられた。
「あなたが言うなら…きっとそうなのでしょう」
「俺は『あなた』じゃないのすよ!『ノス』っていう名前があるのす!お前はなんて名前のすか?」
「おれは…天城、と言います。天井の天に、城という字で、天城」
「天城くん、のすな!天城くんは何も心配することないのす!『心配』という字は心を散らすと書くのす」
「違いますよ?」
「だから大丈夫のす!」
最後に見たのは、ノスの満面の笑み。
そして、夢は唐突に終わる。


妙な夢を見た。
一時期によく見た悪夢ともまた違う。
妙な夢だったことしか覚えていないような、そんな妙な夢だ。
唯一覚えていたことといえば、それは…

「…誰だったんだ、あの人は…」
作品名:311 作家名:泡沫 煙