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こうやって過ぎていく街から

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一か月間、連絡が取れなかったら、俺は死んだものと思ってくれ。

 いつだったか、臨也が笑って、そう言った。
 臨也は誰からも恨まれている。恨みを買うのが趣味のような男だ。だからこそ、彼はパルクールという逃走手段を会得していたし、格闘家の攻撃を躱せるぐらいには体を鍛えていた。
 その時、自分がなんと答えたのか、帝人はもう覚えていない。確か、はいはい、程度のことしか言わなかったのではないかと思う。
 死、というものは、誰にでも付きまとっている。恨みを買っていても、いなくても。あらゆる死が、人間にはまとわりついている。だが、臨也に限って、死ぬはずがないと、帝人は無意識に、考えていた。どんな病魔も、どんな厄罪も、臨也だけは通り越していくのではないかと。そんなことを、帝人は考えていた。

 一か月間、連絡が取れなかったら、俺は死んだものと思ってくれ。

 そんな話を、きいたのは、本当に、いつのことだったのか。
 どんな経緯で、どんな様子で、語られたかわからない話の内容を、内容だけを、帝人は鮮明に、覚えている。
 静かな、本当に静かな、臨也の事務所の、臨也の椅子に腰かけて、帝人はぼんやりと電源のついていないパソコンの画面を見つめ続けた。

 臨也がいなくなって、一か月が経ち。
 二か月が経ち。
 三か月が経ち。
 季節が一つ終わって。
 もうすぐ春がやってこようとしている。
 
 一か月間、連絡がとれなかったら、俺は死んだものと思ってくれ。

「死んじゃったんですか、臨也さん……」
 三か月間。
 臨也と連絡の取れない、時間。
 臨也の情報が掴み取れない、時間。
 ほんの少しだけ、世界が静かに、平和に、なった時間。
「死んじゃったんですか……」
 部屋の中は静かで。
 静かで、静かすぎて、小さな呟きすら耳の奥に焼け付くようだった。